SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter6 鍵を握る悪魔

19:断ち切られた希望

「ペリートさん……」
困惑したまま自分を呼ぶミューズの声には、答えない。
ただ彼女の言葉を止めたまま、お嬢と呼ばれる少女の顔をじっと見つめる。
ただ単に真っ直ぐ見つめているだけでも、人は居心地が悪くなって口を開いてしまうものだ。
けれど、目の前の少女には全くそんな様子はなかった。
このまま見つめていても、ことは先に進まない。
そう判断して、静かに口を開いた。
「お嬢さん」
「……何だい?」
「どうしてそんなにあたしたちにアジトを調べられたくないんですか?」
淡々と問いかければ、吐き捨てるような笑いが返ってきた。
聞いていなかったのかと言わんばかりのその反応にも、何も返そうとも思わない。
「さっきも言っただろう?あんたたちが、嘘をついてアタシらの大事な宝を持っていくかもしれないからだよ」
「嘘だ」
はっきりとそう答えた途端、少女は僅かに目を瞠った。
「嘘だよ。そんなことが理由じゃない」
「じゃあ、他にどんな理由があるってんだい?」
「それはお姉さんが一番わかってるんじゃないですか?」
言葉と同時に、ペリドッドの手が動く。
すぐ側で漂っていたオーブが、その手に導かれるかのように上昇を始めた。
それを見た途端、今まで余裕を保っていた少女の顔が、僅かに歪む。
「何?話が通じないからって、攻撃する気かい?」
「そこまでしないよ。今はまだ」
手を上空に伸ばして、オーブを太陽に掲げて。
真っ直ぐに少女を見つめたまま、ペリドッドは言葉を紡ぐ。
「あたしがしたいのは、こっちっ!」
一際強い口調で言うのと同時に、ぱちんと指を弾いた。
その途端、太陽に重なったオーブが目も眩むほどの光を放つ。
「うぎゃあっ!?」
まともに光を見てしまったらしい、何人かの悲鳴が上がった。
放たれた光は、だんだんと弱くなる。
けれども、暗い場所を照らす明かりとしては、十分だった。
このアジトの入り口は、南側に面するように作られている。
スターシアは、地球でいう南半球に位置する国だから、太陽が当たるのは北側だ。
だから、この場所――特に少女の立つ場所は、日の当たらない日陰になっている。
そこを照らすために、オーブに光を集めた。
こちら側から光が当たれば、彼女の影は間違いなく、背後の建物に写ると思ったから。
思ったとおり、扉にははっきりと少女の影が浮かんだ。
目晦ましも兼ねていた光を弱めて、オーブの高さを調節すれば、写し出されたその影の形がはっきりと見えてくる。
その影が完全に少女と同じ高さになったそのとき、隣にいるミューズ声を上げた。
「あの影は……っ!?」
「やっぱり……」
壁に写った影は、どう見ても少女のものではなかった。
少女はバンダナを巻き、髪を全てその中に入れてしまっている。
なのに、後ろに現れた影は、長い髪を揺らしていた。
服装だって、周囲にいる湖賊たちとほとんど変わらない身なりをしている彼女からは考えられない形をしている。
彼女が身に着けているのは短剣くらいなのに、影の方では明らかに装飾品と思われるものが揺れていた。
その影を、見間違えるはずもない。
マジック共和国の王都で遭遇した、子供の姿をした悪魔――ネヴィルの足元に現れていたものと、同じものなのだから。
それが動かぬ証拠。
人が影の形を、自由に操れるはずがない。

「あんたは『お嬢』さんじゃないっ!あんたは、マジック共和国を襲った悪魔だっ!!」

びしっと人差し指を突きつけて、断言する。
一瞬、目の前の少女は驚いたように目を見開いた。
その視線が、すぐに足元に落ちる。
顔が俯き、バンダナの中に収められていない前髪が表情を隠した。
「お、お嬢……?」
トミーと呼ばれたリーダー格の男が、恐る恐る少女を呼ぶ。
それが、きっかけだった。
「ふ……っ、くく……っ、……あっはははははっ!」
突然少女が笑い出す。
辺りに響くその声に、男たちがびくりと体を震わせた。
彼女の口から発せられているはずの、声。
それが、先ほどまでとは全く別のものに聞こえたからだ。
暫くして、漸く笑い声が小さくなる。
それに会わせるように、少女の顔がゆっくりと上げられた。
その顔を見た途端、その場にいる誰もが息を呑んだ。
顔を上げた少女の瞳の色が、変わっていた。
先ほどまで金であったはずのそれは、今は僅かに青の混じった翠に変わっている。
にやりと少女の顔が笑う。
その口から出た声はやはり変わっていて、受ける印象も、先ほどとは全く違っていた。
「よくわかったねぇ、お姉ちゃん。さすがだねって褒めてあげるべきなのかな?」
「いらないよっ!あんたからの賛辞なんて欲しくないっ!」
「ふふっ。言うと思った」
くすくすと、本当に楽しそうに少女が笑う。
その表情は、間違いなくマジック共和国で見たあの子供と同じだった。
「それにしても、よく僕だってわかったね。姿も性別もこーんなに違うのに」
「ウィズダムから聞いたんだよ!あんたは体に限界が来ると、魂だけを殺して、生きたまま人の体を乗っ取るんだって!そうやって大昔から生きてきたってっ!」
「へー、ウィズダムが……」
不思議そうに尋ねられた言葉に、怒りを込めた乱暴な口調で答える。
その途端、少女――新たな体を得たネヴィルは意外そうな顔をした。
「珍しいな。……ああ、僕が大地のお姉ちゃんにキスしたからか」
思い出したように呟いて、ぽんっと軽く手を叩くその姿は、幼い子供そのままだ。
既に成人した少女の姿である今となっては、その仕種も口調も、わざとらしいものにしか見えないけれど。
「ぺ、ペリートさん……!」
突然の、予想もしなかった時代に呆然としていたミューズが、漸く我に返ったのか、唐突に声をかけてくる。
視線だけを向ければ、彼女も同じように視線だけを返してきた。
ちらりと見た彼女の手は、既に剣の柄にかけられている。
「この人が、本当に……っ!?」
「そうだよ。今ならミューズちゃんにもわかるでしょう!?」
少し責めたような口調になってしまったかもしれない。
けれど、そんなことを気にしている暇なんて、今のペリドッドにはなかった。
「確かに、感じる魔力が変わってますけど、でも、そんな……!」
余裕がなくなっていることに、気づいたのだろうか。
少し驚いたような表情をしたミューズは、真っ直ぐにネヴィルを見て、驚愕を隠さない声で呟く。
ふと、視界の中で、ネヴィルが楽しそうに笑ったのが見えた。
「ふーん。そっちのお姉ちゃんも、お姉ちゃんのお友達?」
嘗め回すようなその視線に、思わずミューズを隠すように前へ出る。
一瞬驚いたような顔を浮かべたネヴィルは、すぐに楽しそうな、いやらしい笑みを浮かべた。
「かわいいねぇ。お姉ちゃんにして置けばよかったかな?新しい体」
「ネヴィルっ!!?」
案の定放たれた言葉に、思わず目の前の悪魔を睨みつける。
その途端、ネヴィルは本当に楽しそうに笑った。
「あっははっ。冗談だよ、水晶のお姉ちゃん」
声を上げて笑うその姿は、本当に楽しそうで、それが逆にこちらの神経を逆なでする。
頭の中を怒りでいっぱいにしていたらいけないとわかっているのに、湧き上がる感情を止められない。
「それに、僕には殺せないみたいだからね。お姉ちゃんの魂」
「え……?」
唐突に告げられた言葉に、一気に思考が冷めた。
急激に怒りが引いていく。
それと入れ替わるように浮かんできたのは、疑問だった。
それはミューズも同じだったらしく、視界の隅に移る横顔が、困惑したように固まる。
「あいつだけかと思ってたけど……。そうなんだ。君までお姉ちゃんたちの側にいるんだね。親心ってやつ、かな?」
「一体何の話だっ!!」
「うわぁ、勇ましー。そういうところは変わんないよね。いつまで経っても」
自分の話なのに、何を言われているのかわからない。
そんな理不尽さから思わず叫んだミューズの問いには答えず、ネヴィルはただ楽しそうにくすくすと笑う。
「あ、あの、お嬢……」
ふとそのとき、自分たち以外の人物の声が上がった。
ネヴィルが正体を現したところで完全に蚊帳の外に置かれていた湖賊の1人が、状況に耐え切れずに口を開いたのだ。
「さっきから、一体何の話を……」
「うん?えーっとね」
少し考えるような仕種をしたネヴィルが、可愛らしくうーんと唸る。
寄り代にされた少女自体は、それなりに可愛い部類に入る容姿をしていたから、何も知らない人間ならば、その仕種は可愛らしく思えただろう。
けれど、湖賊たちにとって少女は恐怖を与える人間で、自分たちにとっては敵だ。
湖賊たちはますます恐怖を感じ、自分は怒りしか感じない。
あまりにも長い時間考え込むネヴィルに、痺れを切らしたペリドッドが口を開こうとした、そのときだった。
「説明面倒くさいから、みんな死んじゃって」
「え……?」
その言葉が理解できないのは、誰もが同じだった。
ネヴィルがかざした手に、光が集まる。
それを目にした途端、強い魔力を感じて、我に返った。
「っ!?精霊よ!今ここに、我らを守る盾をっ!!」
正式なものではない、簡易詠唱。
膨大な魔力を集中させるためには足りないけれど、今は紡がないよりマシだった。
呪文の名を口にするときよりは多い魔力が、かざしたオーブに集中する。
先ほど自分の後ろに隠したミューズが前に出ないようにと、一瞬判断で体勢を変えて、力いっぱい叫んだ。

「マジックシールドっ!!」

オーブに集中した魔力が発動するのと、ネヴィルの手の中にある光が弾けたのは、ほぼ同時だった。
魔力の膜が、自分たちを包む。
一瞬遅れて、物凄い衝撃波が体を襲った。
「きゃああああっ!!!?」
「くぅ……っ!!」
簡易用のものとはいえ、詠唱を加えて発動させたはずの呪文を突き抜けるほどの強い衝撃。
それほど威力の強い呪文なのだと理解して、ペリドッドはさらに意識を集中する。
体中を痛みが襲う。
ぎしぎしと骨がなっている気がする。
それでも、集中を乱すわけには行かなかった。
その呪文に耐えている時間はきっと一瞬だったのに、何時間にも感じられた。
漸く光と衝撃が収まって、初めてペリドッドは力を抜いた。
途端に目の前に展開していた膜が消失する。
思ったより体に負荷がかかったらしい。
だらんと腕を下げたとき、肩で荒く息をしていることに気づいた。
足がもつれて、体がふらつく。
それでも、倒れるわけにはいかなかった。
「ふふふっ。おっしまーい」
楽しそうに笑うネヴィルの声が耳に届く。
睨んでやろうと思って顔を上げた途端、目に入った壮絶な光景に息を呑んだ。
「こ、これって……」
「げぇ……」
後ろから唖然とするミューズの声に、答えることができない。
漂ってくる血の匂いに思わず手で口をふさいで、目を逸らした。
そこに、先ほどまであんなに大勢いた男たちは、いなかった。
いや、いなかったと表現するのは、正しくないかもしれない。
彼らの体は、確かにそこにあった。
それは、見るも無残な姿に、変貌していたけれど。
先ほどの光がどんな呪文だったのかは、知らない。
けれど、風のようにその力を刃に変えるものだったことだけは、確かで。
先ほどまで生きていたはずの男たちは、その身を切り刻まれて、その場に倒れていた。
中には、とても言葉にできない姿になっている者もいる。
勇者なんて呼ばれているとはいえ、実際に人間を殺したことのないペリドッドにとって、その光景は壮絶だった。
レジスタンスとして戦争を経験したミューズにしても、ここまで酷い光景は見たことがなくて、思わず言葉を失い、息を呑む。
「あなた……、なんてことを……っ!!」
「この人たちが悪いんだよ。人間の癖に、僕に説明なんてさせようとするんだもん」
ミューズが漸く声を搾り出し、ネヴィルを睨みつける。
けれど、彼――いや、彼女は悪びれる様子もなく、さらりと答えた。
それが余計に2人の嫌悪感と怒りを誘うことに、きっとこの悪魔は気づいているのだ。
気づいていて、わざと子供のような口調で言葉を口にしているのに違いない。
そんな風に考えないと、気が狂ってしまいそうだった。
「あ、そうそう。お姉ちゃんさぁ」
唐突に、嫌悪を助長させるような明るい声でネヴィルが声をかけてくる。
こんなことをする奴に言葉を返したくなんてなくて、睨みつけることで答えた。
「お姉ちゃんが探してた本って、これのことでしょ?」
ネヴィルが方の前で手をかざす。
その途端、その中に白い本が現れた。
少し薄汚れたその本の表紙に綴られている言葉を、ペリドッドは知らない。
古代語だったから、読めなかった。
思わず呆然と本を見上げていると、ふいに宙に浮かべたままだったオーブが光り出す。
驚いて視線を向けてよく見れば、光っているのはオーブではなく、その中心に埋め込まれた魔法の水晶の核だった。
「オーブの核が反応してる……」
呆然と呟いてから、思い出す。
確か精霊は、本物の呪文書ならば、魔法の水晶が反応するはずだと言っていたはずだ。
「じゃあ……っ!?」
漸く我に返ったペリドッドが、勢いよく顔を上げる。
見上げた先にいるネヴィルの手には、相変わらず白い本があった。
「ネヴィル……っ!!」
「これさぁ、お姉ちゃんたちには大事なものかも知れないけど、僕にとっては厄介以外の何者でもないんだよね」
すっと本を引き寄せて、ネヴィルが笑う。
その笑顔は先ほどまでの無邪気なものとは一変した、妖艶なものだった。

「だからさ。渡してあげない」

にっこり笑って告げられた言葉を、最初は理解できなかった。
いや、理解することを拒否していたのかもしれない。
次の瞬間、ネヴィルの手の中に小さく音を立てて炎が発生する。
たちまち白い本を包んだそれを見て、ペリドッドは若草色の瞳を大きく見開いた。
「ああっ!?」
背後から、ミューズの悲鳴が上がる。
けれど、ペリドッドの口から、悲鳴が漏れることはなかった。
ゆっくりと、炎に包まれた本がネヴィルの手を離れる。
燃えながら地面に落ちていくその様子は、まるでスローモーションのように見えた。
ぱさっという音が耳に届いて、我に返る。
「……っ!!?」
そうして目の前のものが何だったのかを理解した瞬間、声にならない悲鳴を上げた。
「ふふっ。おーわり。はい。返してあげるよ」
にっこりと笑うネヴィルの言葉も、耳に入らない。
ペリドッドの目はただ呆然と、完全に燃え尽きてしまった本の残骸を見つめていた。
だんだんと炎の消えていくその中にあるのは、もう再生することが不可能なほどに燃えてしまった本だったもの。
何が何でも、見つけなければいけなかった、先祖から受け継がれる宝物。

それが、こんな……、こんな……っ!!?

どうしたらいいかわからなくなって、目の前が真っ暗になっていく。
急速に視界を塗りつぶしていくものが絶望だと知らないまま、ペリドッドはその場に立ち尽くしていた。



「さーてと。ばれちゃったんならもうここに用はないんだよね」
何の反応も示さないペリドッドに飽きたのか、ネヴィルはその新しい外見に似合わない仕種でそう呟くと、ちらりと後ろを振り返った。
そこにあるのは、残虐な悪魔のために犠牲になった寄り代の生家である湖賊のアジト。
暫くそれを眺めていたネヴィルは、唐突にため息をつくと、ぱちんっと指を弾いた。
その途端、急速に光が集まって、アジトの中へと収縮していく。
その光を見て漸く我に返ったミューズは、思わず立ち尽くすペリドッドの前へと出た。
動こうとしない彼女に呼びかけようとしたそのとき、収縮した光が一気に膨れ上がり、爆発した。
「きゃああっ!!?」
辛うじてペリドッドを押し倒したミューズは、体を襲う爆風に悲鳴を上げる。
それでも、下敷きにしてしまったペリドッドは、何も反応を返さなかった。

爆発が収まったことを確認して、体を起こす。
振り返ったその場所には、先ほどまであった建物など、どこにも見当たらなかった。
ただ、辛うじて残った残骸が、炎に燃えている。
扉の前に立っていたはずのネヴィルの姿も見当たらなくて、ミューズは慌てて辺りを見回した。
「ここだよ、お姉ちゃん」
それを見計らったかのように頭上から降ってきた声に、空を見上げた。
瞬間、目に入ったのは黒い翼。
邪天使とは違う、蝙蝠のようなその形に、あの少女は本当に悪魔なのだと漸く認識する。
「あなた……っ!!」
思わず声を上げて睨んだ途端、少女の姿をした悪魔はにこりと笑った。

「じゃあね、バイバイ、お姉ちゃんたち」

てっきり何かを仕掛けてくるのだと思っていた悪魔が、別れの言葉を告げる。
一瞬、これ以上ないというくらいに体に緊張が走る。
けれど、それは杞憂に終わった。

「今度はちゃーんとお話しようね」

にっこりと笑ったままそういったかと思うと、悪魔は唐突に姿を消したのだ。
まるで、空に溶け込むかのように。
拍子抜けし、剣を落としそうになったミューズは、足元にペリドッドがいることに気づいて気を引き締める。
剣を鞘に収めて安堵の息をつくと、そのまま下を見下ろした。
「ペリートさん」
起き上がろうともしないペリドッドに、声をかける。
けれど、それでも彼女は反応しなかった。
「ペリートさんっ!」
少しだけ力を入れて頬を叩けば、どこを見ているのかわからなかった瞳の焦点が、漸く合う。
我に返ったペリドッドは、不思議そうに辺りを見回した後、びくんと体を震わせたかと思うと、勢いよく体を起こした。
「本っ!本はっ!?」
慌てて肩を掴んでくるペリドッドから、思わず視線を逸らす。
そして無言のまま、燃えている残骸の少し手前を示した。
そこにあったのは、先ほどの爆風でさらに量を減らしてしまった、白い本の残骸。
少しの風でも簡単に飛んでしまうほど軽い、黒い塵の集まりだった。
「う……そ……」
ペリドッドの手が肩から落ちる。
立ち上がった彼女は、ふらふらとその場所に近づくと、足から力が抜けたようにその場に座り込んだ。
その手が、ゆっくりと黒い灰に伸ばされていくのが、後ろにいる自分にも見える。
「嘘だよね……。こんなの……」
目の前の光景が信じられない。
それは彼女も自分も、同じだった。
せっかくここまで来たのに。
全部無駄になった――無駄にさせられたのだ。
あの悪魔に、邪魔をされた。
この呪文書だけが、唯一の希望のはずだった。
ネヴィルを倒して、ミスリルを助けるための、希望。
それが砕かれた今、どうしたらいいのかわからなくて。
目の前のアジトの残骸が燃え尽き、傾き始めた日が落ちるまで、2人はその場から動かなかった。

ずっとずっと、動けずにいた。

2006.11.20