SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter3 魔妖精

7:偽りの王女

「最初に言っておく」
甲板に出ていたタイムとティーチャーに向かい、アールが声をかけた。
「私も今は国を長く離れていられない。ここについてきたのはエルランド王との交渉のためだ」
「交渉?」
「ああ」
ティーチャーの問いにしっかりと頷く。
「昨日も話したように、エルランドは最南端にある王都を除いた全土が魔妖精の手に渡っている。そのため王家は王都以外の全ての場所へ立ち入ることを禁じた。おそらく、今あの大陸を北上することができるのは城の騎士団か、許可を得たハンターたちだけだ」
「その北上の許可を、あんたが取ってくれるってこと?」
タイムが問いかけると、アールは「ああ」と頷きながら答えた。
「たぶん、ハンターでもないただの冒険者には許可が下りないだろうからな」
「ハンターのふりして許可を貰いに行くんじゃ駄目なんですか?」
「たぶん無理だ」
「ハンターにはギルドからその力量別に証明書が発行されてるって話だから、たぶんそれを見せろって言われるだろうしね」
「そうなんだ」
「レミアとフェリアが持ってたから、間違いないと思う」
アールの話を引き継いで説明を始めたタイムに視線を向け、ティーチャーは感心したように言った。
そんな彼女の声を聞きながら、タイムは以前レミアたちから聞いた話を思い出す。
彼女たちの話によれば、その証明書がなければ賞金の換金が出来ないこともあるらしい。
だからハンターは何処へ行こうと、必ずそれを持っているはずなのである。
仮にハンターを偽るとしても、忘れたなどという言い訳は通用しないだろう。
「とにかく、私は通行証をもらうことができたらそこで別れる。いいな?」
「うん。ありが……」
言いかけて、がくんとタイムの膝が落ちた。
「タイムっ!?」
「お、おいっ!!」
驚いたアールが慌てて彼女に向かって腕を伸ばす。
間一髪それが間に合って、床に倒れはしなかったものの、タイムはそのままぐったりとした様子でアールに凭れかかった。
「タイム!どうした?」
「何でもない……。船酔いしてるだけ……」
顔を伏せたままそう答えると、タイムは手すりに手を置いて立ち上がった。
心配そうに顔を覗き込んでくるアールからするりと離れて顔を上げると、困ったように笑ってみせる。
「だからここにいたんだけどね。大丈夫。気にしないで」
「ああ……」
「アマスル様!ちょっとこちらへ!」
自分を呼ぶ声が聞こえて、アールは船室の方を振り返った。
「今行く!」
舌打ちしたい気持ちを抑え、風にかき消されないよう大声で答えると、もう一度タイムの方へ顔を向ける。
「部屋も用意してある。無理しないで、辛いと思ったら休めよ?」
「うん。ありがとう」
笑うタイムに小さな安堵を抱いて、アールはその場を離れていった。

「……まずい。悪化した」
そんなタイムの小さな呟きを耳にしたのは、側に残っていたティーチャーだけだった。



「うわー。本当に半日で着いちゃったねぇ」
船から下りて辺りを見回す。
はしゃぎながら言ったティーチャーに「そうだね」と軽く言葉を返して、タイムは船を見上げた。
マジック共和国の高速艇。
外見はほとんど普通の船と変わらないけれど、船底に備え付けられた魔法道具は凄い物だということがわかる。
緊急だということで、余程急いでくれたのだろう。
少しだけ見せてもらった船底では、多すぎるのではないかと思われるほどの数の魔道士が魔法道具を操作していた。
「タイム」
頭の上から声をかけられ、そちらへ視線を向けた。
船からアールが、その手に何かの紙を持って下りてくる。
「悪い。ちょっと装置の調整が必要になってしまって、先に行っててくれないか?」
「あたしたちだけで?」
「ああ。これを持っていけば謁見できるはずだから」
驚くタイムに彼女が渡したのは、手に持っていた紙だった。
よく見れば、それはマジック共和国政府が使う外交用の正式書類の印が押してある。
「私の書いた紹介状だ。すぐに追いつけると思うから、先に行っててくれ」
「……わかった。なるべく早く来てよ?」
「わかってる」
頷くと、アールは早足に船の中へと戻っていく。
「ティーチャー!」
上空から街の様子を観察していたティーチャーは、タイムの声に名残惜しそうにしつつも素直に戻ってきた。
「どうしたの?」
「アール、用事があってすぐには行けないんだって。だから先に行ってることになった」
そう言って、渡されたばかりの紹介状を見せる。
「じゃあ、もう行くんだね?」
「そう。いい?」
「あったりまえ」
「じゃあ行くよ」
もう一度船を見上げてから、タイムは街の方へと歩き出す。
その肩にマジック共和国城下でのように人形のふりを決め込んだティーチャーがちょこんと腰を下ろした。
「人形のふりより、姿を消してた方がいいと思う」
自分の肩に座ったティーチャーを見て足を止めると、タイムは辺りに聞こえないように言葉を発する。
今のこの国の人々の目には、妖精は敵としてしか映らないだろうと思ったから、できるだけティーチャーは人目につかない方がいいだろうと考えて、そう提案したのだ。
「そう?じゃあそうする」
そんなタイムの心情を知ってか知らずか、ティーチャーはあっさりとそう言うと、口の中で言葉を紡いだ。
その言葉を外に出した瞬間、空気に溶け込むようにしてティーチャーの姿が消える。
「これでどう?」
姿が消えても声ははっきりと聞こえてくるらしい。
気配も消してはいなかったから、タイムはあっさりと彼女がどこにいるのか気づいた。
「いいんじゃない」
「やった!」
ぐっとガッツポーズをしているだろう相方に笑いを漏らしながら、今度こそタイムは街へ向かって歩き出した。



城門の前でアールから渡された紹介状を見せると、門番はあっさりと2人を謁見の間に通してくれた。
通された先で王が現れるのを待ちながら、辺りを見回す。
街はとても北への通行を禁止しているとは思えないほどの活気だったけれど、ここは違った。
謁見の間は荒れ、絨毯やカーテンなどもところどころが破れている。
おそらく一度は敵がここまで攻め込んできたのだろう。
街の中も、たまたま通ってきた場所は被害が少なかっただけで、探せば被害を受けたところがあるのかもしれない。
「待たせたな、旅人よ」
目を細めてそんなことを考えていると、玉座の方から声が聞こえた。
部屋のあちこちを観察していた視線を真っ直ぐに正面へ向けると、奥の扉から現れた国王が玉座に腰を下ろそうとしているのが目に入った。
「……いいえ。お目にかかれて光栄です、陛下」
頭を下げて答えると、国王は首を軽く振って顔を上げるように声をかける。
「して、マジック共和国の王女殿下から紹介状を貰うほどのお主が、私に何用かな?」
玉座に腰掛けた国王が、真っ直ぐにタイムを見て尋ねる。
その嫌味たらしい口調に、タイムの側にいたティーチャーが思わず顔を顰めた。
尤も彼女は城下と同じように呪文で姿を隠しているから、国王がその表情に気づくことはなかったけれど。
「私はエスクールより依頼を受け、妖精に纏わる伝承の調査のために旅をしております」
「エスクールの?」
「はい。極秘事項ですので、ご存知ではないと思いますが」
驚きの表情を浮かべた国王に、タイムはしれっとそう返す。
もちろんこれは大嘘だ。
エスクールは妖精の伝承など調べてなどいないし、そんな素振りも見せたことはない。
本来ならばそんな嘘をつくことは問題になるだろうが、今回は別。
これはエスクールの次期国王であるリーフが、もしも国王との謁見が必要になったときには自分の名前を出してもよいと言って提案したものなのだから。
「不謹慎とは思いますが、今回この国で起きた『妖精族が人間の村を襲う』といった事件は始めてですので、原因究明のためにも調査する許可を頂きたく、お願いに参りました」
「調査、ということは、北への通行を許可してほしいということか?」
「はい」
困惑気味に投げかけられた問いに短く、しっかりと口調で答える。
「……ならぬ」
逡巡しているかのような僅かな間を置いて、国王はきっぱりと言い放った。
「どうし……」
「何故ですか?」
少しだけ声を大きくして、叫びかけたティーチャーの声を隠した。
そんな彼女の様子に何かを感じたのか、国王は一瞬顔を顰めたが、すぐに話に戻っていく。
「昨日辺りからか、北の状況が悪化してな。あまりに危険なものだから、国の騎士団以外の者を通行させることは完全に禁止することとなったのだ」
「ハンターも、ですか?」
「そうだ。今北へ行けるのは、北に住む国民の保護に向かう騎士たちだけだ」
だから、たとえ原因究明のためだとしても、他の者たちに許可を出すことは出来ないのだと、国王ははっきりとした口調で言った。
この分だと一般のハンターたちの通行証もギルドに命じて回収しているだろう。
「どうしても、一般人には許可をくださらないと?」
「この国にいるうちは旅人であっても私の国の民だ。すまないな」
「……タイム」
宙に浮かんでいたティーチャーが、顔の側まで降りてきて小声で呼びかけてくる。
言いたいことはわかっている。
けれど、これ以上は自分だけではどうしようもない。
僅かに視線を戻して見上げれば、国王は既に謁見を終わらせる態勢に入っているようだった。

このまま終わりにできない。

何とかしてアールが来るまで謁見を引き伸ばすことができれば、希望はあるだろう。
だが、引き伸ばす知恵が思い浮かばない。
こういうことは自分ではなくルビーが得意とすることだったから。

「謁見中、失礼します」

なす術もなく、思わずぎゅっと目を閉じたのと同時に謁見の間に別の声が響いた。
耳に飛び込んできたその声に、反射的に背後の扉を振り返る。
そして視界に入った人物に目を見開いた。
入ってきたのは比較的軽装をした女兵士。
背中の腰ほどまでに伸ばされた深緑色の髪は、自分のよく知るあの色に間違いない。
そう思った瞬間、焦りでささくれ立っていた心に暖かな気持ちが溢れてくる。
けれど一瞬彼女の心を満たしたその思いは、次の瞬間あっさりと崩れた。
「おお、レーリ!」
入ってきた人物を見て、国王が嬉しそうに立ち上がる。
その口から発せられた名前を聞いて、タイムの表情が固まった。
そんな彼女の様子に気づいていない少女は、敬礼をすると真っ直ぐに国王を見て口を開く。
「お父……陛下、偵察部隊からの伝令が着きました」
「そうか。後で話を聞く。控えの間に通しておけ」
「はい」
呆然と親子を見つめていたタイムは、一礼して出て行こうとする少女に気づいて我に返った。
慌てて声をかけようとして姿勢を崩した途端少女の剣の柄が――そこに刻まれた印が目に入り、瞠目する。
間違いない。見間違えるはずがない。
あの印こそ、自分たちが彼の勇者の子孫であるという物的な証なのだから。
「待って……ください!」
今度こそ声をかけると、レーリと呼ばれた少女が振り返った。
不思議そうに自分を見る国王とレーリ、ティーチャーの視線に小さく咳払いをしてから、タイムは真っ直ぐにレーリの方を見た。
「この国の騎士様だと思いますが、あなたは?」
なるべく声を落ち着けて、尋ねる。
「はい。この国の騎士団長を務めています。レーリ=フォンと申します」
「我が国最強の騎士にして、我が娘じゃ」
「王女殿下……?」
心底嬉しそうに言葉を挟んだ国王を見て、思わず聞き返した。
そういえば、先ほど彼女は国王のことを『お父様』と呼ぼうとしていたような気がする。
「……失礼ですが、レーリ様は数日間行方知れずになったということはございませんか?」
ほとんど確信を持って尋ねた問い。
それを発した途端国王親子の表情が変わった。
「な、何故知っておる!」
「あるのですね?」
再び聞き返せば、国王は表情を歪めて頷いた。
「魔妖精が攻めてきたとき、我が騎士団はレーリの判断で討伐に出た。その後、副団長からレーリが戦死したという知らせを受けたのじゃが……」
「その後、私は王都近くで倒れているところを助けられたのです。ただ、私は自分の名前さえ忘れていて、未だに全て思い出せないままのですが」
レーリの表情が微かに曇る。
悔しくて、許せないのだろう。
自分に優しくしてくれる者たちのことを全く思い出せない自分が。
「……当たり前よ」
「え?」
「いいえ、何でも」
ゆっくりと首を横に振ってから、タイムは真っ直ぐに国王を見た。
「ならば陛下。レーリ様と勝負をさせて下さい」
「何じゃとっ!?」
「国最強の騎士殿に勝てれば、北へ行っても大丈夫だという証。お願いいたします」
「う、うむ……」
頭を下げたタイムを見て、国王が唸る。
「父上」
そんな国王を見かねたのか、タイムの側に立っていたレーリが彼に声をかけた。
最愛の娘に呼びかけられ、国王は俯きかけていた顔を上げ、彼女を見る。
「私はかまいません。勝負させてください」
「レーリっ!?」
「他国の冒険者と試合をするのも、ひとつの訓練ですわ」
微かに笑みを浮かべて言う娘に、国王は小さくため息をつく。
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます、陛下」
「ちょ、ちょっとタイム!」
少し離れた空中でそのやり取りを見ていたティーチャーは、国王親子が出した答えにぎょっとして、慌ててタイムの元へと飛んだ。
そのまま肩に手をかけて、困惑の表情で彼女の顔を覗き込む。
「アールさん待てばいいのに、なんで……」
「あの子の剣の柄を見て」
「剣の柄?」
言われてティーチャーはレーリの腰に下がった剣に目を向ける。
じろじろと無遠慮に剣を見つめているうちに、柄の先端に見覚えのある印が刻まれていることに気づいて目を見開いた。
「あの印は……っ!?」
その印は、タイムの持つ棍の片側の先端に刻まれているのと同じ物。
これが刻まれている武器は世界に7つしかなく、所有者以外の者が持つことができない呪文がかけてあることは、ティーチャーだってよく知っている。
そもそも所有者以外は武器として扱えないはずだ。
元々それらは、見た目はただの水晶玉なのだから。
「魔法の水晶の印。それであれは剣。だから、彼女はここの王女じゃない」
レーリ自身の言葉どおりならば、彼女は何らかの理由で記憶を失っているのだろう。
そして、その状態で解放された、というところか。
「ティーチャー。この後きっとごたごたするから、一応アールにすぐ来てくれるよう伝えに行ってくれる?」
「わかった!……がんばって」
それは試合のことではなく別のことを指していたのだけれど、それを十分にわかっているから、笑顔を浮かべて静かに頷く。
それを確認して、ティーチャーは謁見の間の窓から外へと飛び立っていった。

「もういいかしら?」
タイムの側からティーチャーがいなくなったのを見て、静かにレーリが尋ねる。
それを聞いて国王が首を傾げたが、レーリは何も説明しようとはしなかった。
本来の魔力の高さと実力を考えれば、彼女に姿を隠したティーチャーが見えていたとしてもなんの不思議もない。
見ることは出来なかったとしても、気配くらいは感じ取ることが出来るだろう。
「ええ。お待たせしてすみません」
そう一言謝って、タイムは手にした棍を構えた。
それを見てレーリもゆっくと剣を抜く。
「では、参ります!」
叫んだかと思うと、レーリが先に思い切り床を蹴った。
「こ、ここでやるのかっ!?」
そんな国王の叫びが聞こえたが、当のレーリはお構いなしだ。
振り上げられたその剣を、タイムは素早く棍を横にして受け止めた。
「……やるわね!」
にっと笑って、レーリが後ろに飛んだ。
そのままほとんど間を空けずに再び違う方向から攻めてくる。
その戦い方に国王は呆然としていた。
当たり前だ。国王が王女に仕込んだ戦い方と彼女の戦い方は全くの別物なのだから。
国王は王女に特定の流派の戦い方を身につけさせたはずだ。
けれど今ここにいる彼女の戦い方は完全に我流。
タイムは知っているけれど、国王は知らない戦い方。
「さすが国一番の騎士。お強いですね」
攻撃を弾き返しながら、タイムが言った。
「当たり前です!これでも毎日訓練しているのだから!」
「それはすごい。けど……」
金属同士がぶつかり合う音が響いて、振り下ろされた剣を棍で完全に止めた。
「……っ!?」
ぴたりと動きを止めた剣は、それ以上切り込もうとしても全く動かない。
鉄で補強された棍に押し留められている。

「いつもより威力も低いし動きも鈍いよ」

そんな言葉が耳に入ったかと思った瞬間、きんっと音が響いてレーリの手から剣が離れた。
反動で腕に上げられた手が痺れているのがわかる。
同時に腹に激しい痛みが走った。
「……っぁっ!?」
どすんと尻餅をついて、腹を押さえるように蹲る。
その目の前に、白い棍が突きつけられた。
「チェックメイトです、レーリ様」
「な……っ!?」
その言葉にタイムを見上げよう顔を上げ、レーリは動きを止めた。
視界に入った棍の石突。
その先端に刻まれた印。
目を見開いて、そのまま見入ったかのようにそれを見つめる。
「レ、レーリ?」
動かない2人――正確には娘に不安を抱いたのか、国王が席を立った。
「知って……る」
そんな国王には見向きもせずに、レーリは印を見つめたまま小さく呟いた。
「そう、あんたはこの印を知ってる。あんたは、この国の王女なんかじゃない」
「な、何を言っている、貴様っ!!」
「父上の……お父様の娘じゃ、ない?私は……あたしは……っ!?」
叫びかけたかと思うと、レーリは頭を抱え、座ったままの態勢で蹲った。
その尋常ではない様子に国王が玉座から駆け寄ってくる。
「レーリっ!?貴様っ!レーリに何をしたっ!!」
既に棍を引いているタイムに向かい、勢いよく怒鳴りつける。
「何も……」
「嘘をつけっ!何もしていないのなら、何故こんなに苦しんでいるっ!!」
「それは……」

「それは、その少女が自分の過去を思い出しかけているためです」

唐突に謁見の間に響いた声に、国王は弾かれたように入り口を見た。
扉の前に立っていたのは、明るい紫の長い髪を持つ、茶色いローブのような服を着た女。
「アマスル=ラル王女殿下っ!?」
「アール」
国王とは違い、対して驚いた様子もなくタイムが入ってきた女の名を呼ぶ。
「失くした記憶を急激に取り戻そうとすると、そういう状態になることがある。彼女は今まさにその状態なのでしょう」
「失くした記憶を、取り戻す?」
「そうだろう?タイム」
視線を移して問いかけたアールを見つめ、タイムはしっかりと頷く。
「アール……」
「ティーチャーから話を聞いてきた。状況は、飲み込んでいるつもりだ」
そう言った彼女の言葉に頷いて、タイムはレーリに視線を戻した。
突然襲ってきた頭痛が和らいできたのか、だいぶ落ち着き始めている。
僅かに視線を動かすと、そのレーリの様子に安堵の笑みを浮かべている国王の姿が目に入った。
「レーリ。大丈夫か?まだ辛いなら部屋で……」
「……違う」
突然レーリが――蹲った少女が発した言葉に国王が固まる。
「レ、レーリ?」
「違う」
きっぱりと、少女は言った。
そして、支えようとしていた国王の手を振り払って立ち上がる。
「あたしは、あんたの娘じゃない」
国王の動きが止まったのは気のせいではないはずだ。
立ち上がった深緑色の髪の少女はゆっくりと顔を上げると、真っ直ぐにタイムを見た。
「久しぶり、でいいのかな?タイム」
ゆっくりとタイムは首を横に振る。
「まだ1週間経ってないよ」
「そう?そういえば、あの日の前の日にお見舞い行ってたっけ?」
薄っすらと笑みを浮かべて問いかけると、タイムは静かに頷いた。

「おかえり、レミア」
「ただいま」

漸く言われたその言葉に、深緑の髪の少女――レミアはいつものように笑って答えた。

remake 2003.09.13