SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter2 法国ジュエル

15:最後の手段

感じたのは光。
全てを包み込んで消してしまう、破壊の光。
けれど、同時にどこか懐かしさを感じたのも事実で。
その懐かしさが告げていた。
最後の手段を使う時が、すぐそこまで迫っていると。



ふと、黙って木に背を預けていたリーフは顔を上げた。
そのまま、どこか焦点の合っていない目で法国の城を見上げる。
途端に先ほどまで襲っていた眠気が覚めて、焦点も定まってくる。
城の最上階と思われる場所に、懐かしく感じる光が集まっているのを感じた。
「兄様?」
そんな兄の様子に気づいたミューズが、不思議そうに声をかける。
「どうかしたの?」
「いや……」
そう答えたものの、感じた感覚は消すことが出来なくて。

……呼んでる?

何故かそんな思いに駆られた。
根拠など何処にもないのに、ただそう感じた。
そう、直感的に。

「……ミューズ」
「はい」
「俺たちも、行こう」
突然の兄の言葉に、ミューズが驚きに表情を変える。
「どうして突然?さっきはここで待つって……」
「行かなきゃいけないような気がする」
きっぱりと言い切った兄の意図がわからず、ミューズは黙り込む。
そんな妹の様子に気づいているのかいないのか、リーフは木の陰から出て歩き始めた。
「兄様っ!」
「行かなきゃならない。そうしないと……」
そうしなければ、どうなるのかはわからない。
けれど、取り返しのつかないことになるという確信はあった。
今自分たちが動かなければ、彼女たちが二度と戻ってこなくなるような気がした。



息を大きく吸い込んで、杖を掲げる。
いつもなら目を閉じてしまうところだけれど、今は敵に向えるのは自分だけ。
だからしっかりと目を開いて、ルーズを睨みつけるように見る。
妙に落ち着いた様子のセレスを、ルーズは退屈そうに眺めていた。
やがて、あまりに遅い彼女の動きに飽きたのか、つまらなそうに息を吐く。
「どうした?何をしてくれるのかと待っているのだが?」
これが相手の挑発だということはわかっているから、セレスは答えようとしない。
答えようとはせずに、ただ精神を集中する。

最後の決断のあと一歩。
それが、どうしても踏み出せずにいた。
迷っている暇はないということがわかっているのに、決断できない。
先ほどまでの恐れといい、自分の心の弱さを感じて、思う。

私は1人じゃ駄目なんだ。

けれど今はそんなことを言っている場合ではなくて。
もう一度、先ほどよりも大きく息を吸い込んだ。

光の精霊よ。
願わくは、どうか助けて下さい。
仲間を、親友を、私のたった1人の姉を。
この呪文に失敗しても、彼女たちだけは助けてほしい。
自分はどうなってしまってもかまわないから。

リーフさん……。

もう一度会いたいと強く願っています。
あなたの元へ帰りたいと、強く願っているから。

「だからどうか私を支えて……」

心の奥からの願い。
仲間を助けたいと、大切な人に会いたいと思う願い。
それが彼女の力に大きな影響を与えるということなど、今の彼女は知らないはずであるというのに。
無意識のうちに彼女は強く願っていた。
自らの力を高めることのできるその願いを。

「全てを慈しむ白き光よ」

突然セレスが紡ぎ始めた言葉に、ルーズが微かに表情を変える。

「全てを包み、愛する光よ。今一時その力、全てを破壊する剣とならん」

彼は確かに知っていた。
セレスの口から紡がれるその呪文も、その呪文の威力も。
過去に一度、その身を持って受けたことがあったから。
「……ちっ。ダークランスっ!」
舌打ちして詠唱を妨害しようと呪文を放ったけれど、もう遅い。
セレスに届くよりも前に闇の槍は何かにぶつかり、はじけ飛ぶ。
「結界だと……!?」
思わず声を上げて、ルーズはセレスの周りに薄く張られた光の膜を睨んだ。
彼女自身の意思によるものなのか、それとも彼女の持つ“魔法の水晶”が作り出したものなのかはわからない。
いつの間にか詠唱を続けるセレスの周囲は薄い結界によって守られていた。
誰も詠唱の邪魔をすることができないように。

「精霊よ。大地よ。空よ。光に照らされし全てのものよ。その身に受けし輝きし力、今こそ我に貸し与えん」

ぼんやりと杖の先端が光を帯び始める。
それを見て、ルーズは何としても阻止しようと次々と呪文を放ったけれど、それは全てセレスに届くよりも前に結界によって消滅する。

「我が前に立ち塞がりし愚かなる者に、白き滅びを与えよ」

詠唱が完成する。
手に持つ杖の光がさらに強くなる。
目を開けていられないほどに、強く。
「……やめろ」
そこまで光が育って、始めてルーズが口を開いた。
「やめろ!その呪文が何だか知っているのか!生半可な気持ちで使えば身を滅ぼす呪文だぞっ!」
必至で叫ぶその言葉も、もはやセレスには届いていない。

助けたいと思った。一刻も早く。
帰りたいと思った。待っていてくれるあの人の所へ。
だから。

「滅びなさい。魔王っ!」

杖を前に突き出した。
突然の出来事に「ひっ」と叫ぶ声がする。
そんな小さな叫びも、既に気にはならなくて。
思っていたのは先ほどからずっと同じこと。

助けたい。
帰りたい。
みんなを。
みんなで一緒に。

あの人の所へ。

「ライトエイニマーダーっ!!」

かっと杖の先端が強い光を放った。
光は反射的にルーズが作った防御壁をいとも簡単に崩壊させる。
「馬鹿なっ!こんな、小娘に……っ!!」
そして絶叫する彼を崩壊した壁もろとも飲み込んだ。
信じられないほどの勢いで光は大きくなっていく。
壁も床も天上も、全てを飲み込んで膨れ上がっていく。

光の膨らみが部屋中を飲み込み、限界に達したとき、巨大な音を立てて光は爆一気に収縮し、爆発を起こした。
国を、いや大陸をひとつまるまる吹き飛ばしてしまうほどの爆発を。



こうして1000年来の封印を解かれ、人間界にとって恐怖となり始めていた法国は歴史から永遠にその姿を消した。
たった1人の少女の、たったひとつの呪文によって。

remake 2003.05.02