SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter0

Prologue-始まりの時-

「留美」
1人の青年がベッドに横たわる女性の名を呼んで、部屋の中に入ってくる。
「誠也」
起きていたらしく、女性は起き上がると青年の名を呼んだ。
「よくやったじゃん」
昔から変わらない軽い口調。
「ありがと。……赤美(せきみ)は?」
「看護婦さんが連れてった。もうすぐ連れてきてくれると思う」
「そう」
それだけ言って、ふうと息を吐く。
「しっかし、お前さすがだな。もう起き上がれるのかよ」
「そこらの一般人と一緒にしないで。体の鍛え方が違うよ」
「まあ、そう言われればそうだよな」
きっぱりと返されて、青年がおかしそうに笑った。
「……あれから、俺たちがこっちに来てから3年か……」
不意に表情を暗くして青年が呟く。
「連絡取れないけど、他の奴は元気でやってるかな?」
「やってるでしょ。美加なんて、ちゃっかりこっちで同郷人見つけて何とかやってるじゃない」
「私立の学校長の奥さんか。大変だろうな」
苦笑して、青年はふと表情を消した。
「俺たち以外に同郷人がいるなんて思わなかったけどな」
「まあね。思わなかったから美加と私たち以外は全員こっそり帰って同郷人連れてきたんじゃない」
バラバラになっている友人を思い浮かべて、静かに女性が言う。
「そうだな……。あいつら3人は……」
そう呟いた青年は、静かに窓の外の月を見ていた。
「あいつ、今何処にいるんだろうな……」
その言葉に女性の顔から表情が消えた。
「……タニア」
口のしたのは、この地に来た時、いつの間にかはぐれてしまっていた幼馴染みの名。
その声が消えるか消えないかというタイミングで、部屋の扉が静かに叩かれた。
「はい」
素早く青年が返事をする。
静かに扉が開いて、中年の看護婦がその手に小さな女の子を抱えて入ってきた。
「遅くなってすみません、金剛さん。準備が出来ましたよ」
そう言って、女性に静かに眠っている赤ん坊を手渡す。
赤毛の混じった髪を持つ小さな少女が、布に包まれて小さな寝息を立てていた。
ふと、女性が笑った。
「すみません。ちょっとでいいので、3人だけにしてはいただけませんか?」
青年が看護婦を見上げ、控えめに頼み込む。
看護婦は優しく笑うと、一礼して部屋を出て行った。

「……セシル」
女性が青年の本当の名を呼ぶ。
「わかってる。しっかり抱いてろよ、ルーシア」
頷いて、赤ん坊を抱く手に微かに力を込める。
赤い髪と赤い瞳を持つ自分の娘。
その理由はわかっていた。
男と女、どちらが生まれるかさえも。
それが彼らの一族の決められた“道”であったから。

だから、既に決めていた。
この子に付けるべき――偽りと真実の――ふたつの名前を。

青年が部屋の扉にしっかりと鍵をかける。
どこからともなく取り出した黄色い水晶球。
それが淡い光を放つと同時に彼の姿が変化する。
黒い髪と瞳を持ったどこにでもいる男性から、黄色い髪と瞳を持つ異装の人物へと。
手に持った杖を、生まれたばかりの娘へ静かに向けた。
「我らが生まれし大地、インシングの精霊よ」
まっすぐに赤ん坊を見て、青年が静かに言葉を紡ぐ。
「今ここに、我願う。この新たなる命、新たなる勇士に汝らの祝福を捧げよ」
杖から静かに光が漏れて赤ん坊を包む。
「そして我命ず。この者に“時の封印”をかけ、その力を封ぜよ!」
更なる光が赤ん坊を包んだ。
その光が赤ん坊の中に吸い込まれて、だんだんと弱くなる。
「我らは今、我らをこの地に導きし精霊神に誓う」
赤ん坊を抱いた女性が静かに口を開いた。
「汝の定めし時が来るまで、この者の本来の名を封印すると」
それを待っていたかのように、音も無く青年の姿が元に――黒い髪と瞳に――戻る。
そんな彼に一瞬だけ視線を向けると、女性は腕の中の生まれたばかりの娘をぎゅっと抱きしめた。

「我らが娘ルビーに、どうか火の精霊の祝福を」

2人が声を揃えて言葉を口にしたその瞬間、赤ん坊が目を覚ました。
泣き声ひとつ漏らさずに自分を見つめる両親へ視線を向ける。
彼らの姿をその黒い瞳にしっかりと写すと、赤ん坊はそれを細めて2人に笑いかけた。



それが、これからの歴史を握る全ての始まり。
何処からともなく現れた7つの光のひとつが、この地に降り立った瞬間だった。

remake 2002.10.19