Chapter7 吸血鬼
24:枯れた大地
ふと、手に何かが触れたような気がした。
それを感じた瞬間、沈んでいた感覚が湧き上がってくる。
「ん……」
ふるりと瞼が震え、妙に思い気がするそれを何とか開く。
目の前に広がっていたのは、白い雲の浮かぶ空。
それを認識した瞬間、ずきんと頭に痛みが走った。
「……っ、つぅ……」
「目が覚めたか」
思わず声を漏らして額に手を当てた途端、上から声が降ってくる。
少し目を細めて視線を動かせば、そこには座り込んでこちらを覗き込むアールがいた。
その姿を認識して、ベリーは安堵の息を吐き出す。
「アール……。ここは?」
ゆっくりと起き上がって、辺りを見回す。
そこは枯れた森のようだった。
葉のつかない木が点在する、まるで廃墟のような場所。
見覚えのないその場所に首を傾げていると、アールは言いにくそうに口を開いた。
「ここはエルランド王国の、魔妖精の塔があった場所だ」
「え……っ!?」
ベリーは目を見開き、周囲を見回す。
見覚えは、確かになかった。
けれど、その場所のことは知っていた。
「ここが、あの塔の跡地……」
「そうだ」
こちらでは1年と少し、アースではもう2年ほど前のとある戦いで、ベリーはこの場所に来たことがあった。
訪れた、というのは違う。
正確には、攫われてきたのだ。
そのときにはこの辺りに建っていたはずの塔の中にいたとき以外は意識を失っていたらしく、外がこんな風になっていたなんて知らなかった。
「どうしてここに……?」
当時のことを思い出し、ほんの少しだけ胸に痛みが走る。
それを抑えながら、いつの間にか立ち上がっていたアールを見上げ、尋ねた。
周囲を見つめていた自分より明るい紫の瞳が、ゆっくりとベリーを見下ろす。
「あのミルザの幻影が口にした、エル王国。あれはミルザが生きていた当時のこの国の名前だ」
アールの答えにベリーは驚く。
ベリーにはどこだかわからなかった、ミルザの告げた国。
それがここだったなんて、全く考えもしなかった。
「妖精、と彼が口にしていたから、この場所を選んだのだが……」
そう言って、アールはもう一度周囲を見回す。
その仕草を見て気づく。
「滅ぼされてしまったんだったわね。この国の妖精の村は……」
「ああ」
かつては、この場所には妖精の森があり、その奥にはエスクール同様妖精たちの住む村があったという。
けれど、その村は魔界からやってきた魔妖精に滅ぼされ、その村の跡地に魔妖精たちは居城である塔を建てた。
「痕跡を探そうにも、その後に建った塔までこのざまだからな」
アールが視線を止め、ため息を吐きながら呟いた。
その言葉にベリーも彼女の視線を追う。
その先には何かの残骸があった。
見たところ、石造りのとても大きな建物だったらしい。
かなりの広範囲に散らばったそれは、もはや以前の面影などほどんどなかった。
それを見て思い出す。
確か、タイムとルビーが言っていた。
あの魔妖精の居城は、その主を失った途端に崩れ去ったのだと。
そしてそこには、今ここでその残骸を見つめているアールも居合わせたはずだ。
そのとき、彼女たちは他に妖精の姿を見なかったのだろうか。
そう思い、それを尋ねようと口を開こうとしたそのときだった。
「それよりお前、その石」
「え?」
くるりとこちらを向いたアールの視線は、ベリーの胸元に向けられていた。
見れば、服のボタンは弾けたままで、普段はハイネックの服が鎖骨が見える程度にはだけていた。
そこから零れた黒い石が、太陽の光を受けてきらりと光った。
「ああ、これ?」
「どうしたんだ?それ」
思い出した用に繋がっている紐を摘み上げ、その石を持ち上げる。
「セレスがくれたの」
そう答えれば、アールは一瞬驚いたように目を瞠った。
「セレスが?……そうか。あいつはこういうものも作れるんだな」
「どういうこと?」
その言葉を不思議に思い、ベリーは訝しげに眉を寄せて聞き返す。
するとアールは、一瞬だけ目を瞠って、けれどすぐに納得したような表情を浮かべて口を開いた。
「先ほど、私をかばってくれたとき、その石が光って吸血鬼を弾いただろう?」
「え、ええ」
「それはその石と、その石に込められた魔力の力だ」
「これに?」
この石にそんな力があるとは思わず、ベリーは不思議そうに胸元で光っているそれに視線を落とす。
「それはヘマタイトと言ってな。持ち主の身代わりになってくれると言われている石だ」
「この石が?」
「ああ。こちらでは冒険者のお守りとしても好まれているし、その石に魔力を込めて、危険が迫ったときの身代わりになるマジックアイテムとして使われることもある」
「お守り……」
その言葉に、思い出す。
『お守り、かな。クールに見えて実は熱い親友へ送るお守り』
あの時、セレスは確かに綺麗に笑ってそう言った。
その笑顔を思い出して、思わずため息をつく。
「あの子は……」
そういうところは、段々と姉に似てきているような気がする。
怒るだろうから、絶対に本人には言えないけれど。
「その石、罅が入っただろう?」
「え?」
アールに声をかけられ、はっと我に帰る。
改めて黒い石を見ると確かに、よく見なければわからない小さな罅が入っていた。
「あ……。ええ、小さいけれど……」
「先ほど、身代わりとしての効力を発動したからだな」
「それは、マジックアイテムとして使えば使うほど、罅が入るということ?」
「そう。そして、使用回数が限界を超えると砕け散ってしまう」
持ち主が受ける負荷を変わりに受けているのだから、それはきっと当然の代価なのだろう。
そんなことを考えていると、ふと傍からため息をつくような気配を感じた。
顔を上げれば、アールがじっと石を見つめていた。
その瞬間、目が合ったかと思うと、彼女は苦笑を浮かべた。
「ほとんどの場合は一度限りなんだが、さすがだな。これならあと数回は持つだろう」
入った罅はまたごく小さいもので、そんなに深くはないように見えた。
この罅は、この石が身代わりをするたびに大きくなっていくのだろう。
「あいつがいつの間にこんな技術を見につけたのかは知らないが、少し驚いた」
「本当、いつの間に……」
アールの言葉に、ベリーは思わずため息をつく。
セレスは留守番組として、他の仲間たちがインシングへ行っている間も学園にいたはずだ。
自分もそうだったというのに、ベリーは彼女がこんな技術を身につけていることに全く気づいていなかった。
そんな自分に呆れてしまう。
同時にセレスを尊敬する。
彼女はとっくに精霊神法を手に入れている。
けれど、それだけでは満足せずに、自分にできることを探し、学んでいた。
じっと石を見つめながらそんなことを考えていると、左の肩に重みを感じた。
見上げれば、目の前に柔らかい笑顔を浮かべたアールがいた。
肩に感じた重みは、彼女の手が乗せられていたからだった。
「それだけお前が心配だったんだな。それ、大事にしろよ」
「ええ、わかっているわ」
胸の前に下がった石をぎゅっと握り締める。
無機質なはずのそれが、なんだか温かいような気がした。
暫くの間そんなベリーの姿を見つめていたアールは、気分を入れ替えるかのように短く息を吐いて辺りを見回す。
再びベリーに視線を戻した彼女の顔からは、穏やかな笑みは消えていた。
「さて、少し歩いてみるか?」
「そうね。行きましょう」
その言葉に、ベリーも漸く顔を上げて頷いた。
その土地は、最初の印象どおり荒れていた。
木々は枯れ、土地は痩せ細ってしまっている。
あの戦いの結末を見届けたアールの話では、これは魔妖精がここに開いた魔界への門から漏れ出した瘴気が原因らしい。
この世界における『瘴気』とは、魔界の空気のこと。
人間界と魔界では空気を構成する成分が若干異なっている。
少量ならば問題ないけれど、大量に吸収した場合、発生した場所の周囲の生態系に影響を与えることもある。
そして、その結果がこの土地の姿なのだという。
「私は詳しくないが、ミスリルが言うには急激な環境の変化が原因らしい」
「どうしてミスリル?」
「薬草学を学んでいるときに調べたそうだ」
「へえ……」
ミスリルが理事部の仕事以外に何かしているなと思うことはあったけれど、それだったとは思わなかった。
確かに親の残した知識だけで薬を作るのは限界がある。
だからこっそり学んでいたのだろう。
「別に向こうの空気に毒性があるわけではなく、突然異質なものに長時間触れた結果であるから、扉の向こう側の生態系にも影響が出ているはずだ、と聞いた気がするが」
「つまり、『瘴気』という言葉の本来の意味が『毒性のある空気』という意味だとするのなら、あちらにとっては人間界の空気が瘴気というわけね」
「そういうことになるんだろうな」
「それにしては、魔族は人間界でもぴんぴんしているようだけれど」
「魔力を持っていれば影響は受けないらしい」
「どうして?」
「さあ?」
無責任な答えに、ベリーは思わずアールを睨みつけた。
その視線に気づいた彼女は、困ったような表情を浮かべて苦笑する。
「私を睨むな。私はミスリルからそう聞いたんだ」
「ミスリルから、ねぇ」
でも、そりは本当だろうか、とほんの少しだけ疑う。
ミスリルだって自分と同じアースで生まれ育ったのだ。
その彼女が、こちらの世界の大気のことまで詳しいとは思えない。
そう思っていることがわかる表情でも浮かべていたのか、こちらを見たアールは苦笑をすると、付け加えるように言った。
「あいつもその答えは知らないかもしれないな」
「え?」
「あいつとその話をしたとき、あいつはこの話を別の誰かに聞いていたようだったからな」
「誰かに?」
問い返せば、アールは黙って頷いた。
ほんの少しだけ、考える。
そして、気づく。
ミスリルにそんな助言をする存在は1人しか思い浮かばなかった、といった方が正しいかもしれない。
「……まさか、ウィズダム?」
「さあ。姿は見えなかったが、まあ、そう考えるのが妥当か」
ウィズダムはミスリルが胸につけているブローチを媒介にして現れる。
それを通して会話をしていたのなら、ミスリルにしか声が聞こえないこともあるようだと言っていたのは、確かミスリル本人だったか。
「どうやら、ここが村の中心だった場所らしいな」
そんなことを考えていたから、アールの声に反応するのが少しだけ遅れた。
顔を上げた先にあったのは、枯れ果ててしまった森の中の、ほんの少しだけ開けた場所。
枝の上や地面の上に壊れた小さな家々が並ぶ、小人が住んでいたのだろうと思われるおもちゃのような小さな集落だった。
その壊れた家屋は、ティーチャーの故郷であるテヌワンを思い起こさせた。
今はもう人の気配を感じないそこを見て、ベリーは痛ましそうに目を細める。
「ロニーがいなければ、今もここに妖精たちが住んでいたのかもしれないのね」
「そうだろうな……」
魔妖精がこの地にやってこなければ、今はこの村はどんな様子だったのだろう。
そんなどうしようもないことを考えて、やるせなくなってため息を吐き出す。
「この状態では、妖精どころか動物すらも暫くの間は住めないだろうが」
辺りの植物は枯れ果ててしまっていて、とても動物が餌にできるような状態ではない。
植物が育つ土地に戻るまで、いったいどれほどの時間がかかるのか。
「外が、ここまで酷かったなんて……」
思わず呟いた途端、アールが驚いたようにこちらを見た。
けれど、それはすぐに元の表情に戻る。
「そうか……。お前たちは記憶を封じられて他の町に放り出されたんだったな」
「ええ……」
確かにあの魔妖精との戦いの時、自分たち7人は一度はここに来たはずだった。
けれど、外を見たのはルビーとタイムだけだ。
2人以外は、外の様子を見たことはなかった。
あのときのことを思い出そうとして、ふと頭に別のことが浮かんだ。
いや、違う。
本当は、ここに来たときからずっと、そのことが頭に引っかかって離れてなかった。
「タイムに喧嘩を売ったことでも気にしているのか?」
「え?」
思わず考え込んでしまっていたらしい。
アールに声をかけられて、顔を上げる。
痛ましそうにこちらを見つめている彼女を見て、苦笑した。
そういえば、彼女はあの間ずっとタイムの後をつけていて、全てを見ていたと言っていた気がする。
その間はエルランドの視察ということにしていて、当時の国王もそれを了承していたのだと聞いたときは、驚いたものだけれど。
「違うわ。あのときのことは仕方がないことだってわかっているつもりだもの」
「なら、他に何かあったのか?」
その問いに、一瞬答えようかどうしようか迷った。
だから、ほんの少しだけ考える時間が必要だった。
「……さっきの、宝物庫にいた吸血鬼。どうして、あいつらは闇の呪文が効かなかったの?」
「ああ、その話か」
アールは納得したとばかりに一言呟く。
少し視線を空へと向けてから、再びこちらを見ると、そのまま彼女は説明を始めた。
「さっきもちらっと話したが、吸血鬼と呼ばれる魔族は系統というか、種族が3種に分かれているんだ。ひとつはバンパイヤ。こいつらは牙以外はほとんど人と同じ姿をしていてな。種族全体として魔力は光の属性に傾いているらしく、闇の属性を宿す呪文に弱い。お前も知っているラウドがこの種族だ」
「ラウド……」
「ああ。イセリヤの部下だった……覚えているだろう?」
「ええ、もちろんよ。よく、ね」
そう、よく知っている。
それは自分が、インシングの人間として目覚めたとき、初めて戦った敵の名前だから。
だから、よく、知っている。
「ふたつ目はドラキュラだ。こいつらは肌が異様に青白いから、見れば何となくだがわかる。こちらはバンパイヤとは逆で、種族全体として闇の魔力を持っていて、光の属性に弱い。さっきの奴はこっちだな」
「でも、光の呪文も効かなかったんじゃなかった?」
「それがよくわからないんだが……」
思い切り眉間に皺を寄せ、アールは首を傾げる。
彼女にも理由のわからない、光の呪文が効かないドラキュラ。
たぶん、今その理由を考えても答えなど出ないだろう。
「まあ、いいわ。最後は?」
そう考えて、ベリーは続きを促す。
アール自身もそれを理解していたのか、彼女はあっさりと頷くと考え込むのをやめた。
「バンバード。これは人間に蝙蝠の翼が生えたような姿をしていて、吸血行為をほぼしない。温厚な種族で、人間界に集落を持つ者もいる。確か……、タイムとティーチャーは旅の途中に会ったと言っていたと思うが」
「そう……」
そこまで聞いて、ベリーは視線を落とす。
たぶん、スターシアで会った吸血鬼には、バンバードという種族は関係していないだろう。
そんな容姿を持つ者はいなかったようだし、何よりあそこにいた者たちは、どう見ても温厚とは言い難かった。
そこまで考えて、ふと気づく。
「この世界では、ドラキュラとバンパイヤは別物なのね」
思わずそう呟けば、アールが一瞬だけ驚いたように目を見張った。
「アースでは違うのか?」
「ええ。吸血鬼とバンパイヤはイコールだけど、ドラキュラって言うのは確か個人名だったはずよ。種族の名前ではないわ」
いつかそれを調べていたのは、タイムだったか。
そんなことを思い出しながら、ベリーはため息を吐く。
「尤も、あっちでは全て架空の種族と架空の人物の名前だけれど」
アースに吸血鬼などと言う種族は存在しない。
全て何かを元に考えられた架空の存在の名だ。
それを聞いたアールは、感心したようにため息を吐いた。
「世界が違うと変わるものだな」
吸血鬼が実在する世界に住む彼女にとって、存在しないアースという世界の常識は信じ難いのかもしれない。
それはフェリアやリーフを見ていてもよくわかるから、ベリーは何も言わなかった。
それよりも、彼女の意識はもう別のものに向いていた。
「光呪文の効かないドラキュラ、か……」
もし本当にあの吸血鬼がそうであるならば、それには何らかの理由があるはずだ。
そう思った瞬間、頭の中にずっと引っかかっていたものが浮かび上がる。
宝物庫から逃げる瞬間、一瞬視界に入ったもの。
それは、確かに男だった。
その男の姿に、ベリーは見覚えがあった。
まさか、あのとき見たのは、本当に……?
「さて、これからどうする?」
アールの声に、ベリーははっと我に返る。
思考を全て頭の隅へ押しやると、小さく息を吐き出して顔を上げた。
「『鍵』を探す、と言いたいところだけれど」
「この有様じゃな……」
周囲の家屋は廃屋も同然。
加えてテヌワンのような、人間のが入ることができる神殿はない。
一体どこをどう探せばいいのかと、思わず頭を抱えたくなった。
「そういえばお前、さっきのブローチはどうしたんだ?」
「ちゃんと持っているわよ」
アールに声をかけられ、握っていたままだった右手の拳を開く。
そこにはあのときミルザの幻影から受け取ったブローチだった。
「ずっと握っていたのか?」
「しまうタイミングを逃したから」
あのままこの国に逃亡して、そのあと荷物を開くことなくここまで来てしまった。
ただそれだけの話なのだけれど、アールは驚いていたようだった。
「それがスターシアの『鍵』なのか?」
「おそらく、ね。ミルザの幻影が出てきたんだから、間違いないと思ってるわ」
彼が姿を見せて、これを自分に託した。
だから、これが鍵なのは間違いないのだろう。
「まさか散々探した『鍵』の在り処があの場所だったとはな」
「それよりも……」
アールがため息を吐き出したくなる気持ちは、ベリーにだってよくわかる。
けれど、今はそんなことよりも、ずっと気になることがあった。
「どうしてあのとき、これが反応したのかしら?」
「ん?ああ、魔法の水晶か」
いつの間にか武器に戻った魔法の水晶は、今はいつものナックルの形でベリーの手に嵌っていた。
「あの時反応したのは『鍵』だけじゃなかったわ。今までは、これが反応することなんてなかったのに……」
どうして突然。
そう続けようとした。
けれど、それは思わぬ事態によって遮られる。
「え……?」
再び武器が光を放ち始めた。
「また水晶が光ってる?」
両手に嵌めていたそれを外して、水晶球の姿に戻す。
ナックルの状態であったときは淡かったその光は、水晶球になった途端に強い光に変化する。
驚く間もなく、その光は水晶から飛び出した。
「あ……」
水晶から飛び出した光は、真っ直ぐに一方向へ向かって伸びていた。
それを見たアールが、思い出したように口を開く。
「そういえば、ミルザが言っていたな」
「え?」
「『鍵』には妖精たちが、そして水晶が導いてくれるだろう、とな」
「そういえば……」
宝物庫で出会ったミルザの幻影は、確かにそんなことを言っていた。
それがこの現象だと言うのだろうか。
「行ってみるか?」
アールの問いかけが、耳に届く。
ここで悩んでいても仕方がない。
それはわかっていた。
他に探す方法も手かがりもない以上、それ以外に道もない。
「……ええ」
胸に微かに引っかかるものがあった。
けれど、それが何かもわからないまま、ベリーは彼女の提案に頷いていた。