SEVEN MAGIG GIRLS

Side Story

魔法剣特訓記 - 4

「いててて……。どこだよ、ここ」
穴から放り出されて、痛みに地面に打ち付けた腰をさすりながら辺りを見回した。
周りに見えたのは明るい森で、その向こうに何やら白い壁が見える。
「……何だか見覚えありすぎるんですけど……」
嫌な予感がして、そう呟いたときだった。
「リーフ?」
「うっわぁっ!!?」
突然声をかけられて、俺は思わず叫ぶ。
「……何をそんなに驚く?」
その言葉にほぼ反射的に後ろを振り返ると、そこにはよくよく見知った女がいた。
「あ……、アール……?」
「他に誰に見えるというんだ?」
「いや、だって、服……」
普段のあいつは水色のローブを来ているのに、今日は丈の短い上着に黒いパンツとずいぶんラフな格好をしている。
それにしても、こいつ普段の格好はあんなに青い色が多いのに、今日は茶色とか黒とか、そんな色の服だ。
本当はこいつ、そういう色が好きなんじゃないだろうか。
「今日は休暇なんでな。いつもの格好で外に出たら目立つだろう?」
「ああ・・・、なるほど・・・」
確かにあの格好じゃあ目立つだろう。
あれはリーナがデザインした特注の服らしいから、他に着ている奴なんていない。
俺やミューズは、似たようなデザインの服を着ている奴らは結構いるから、そんなに目立たないけれど。
「それよりお前、何故ここに?レミアとエスクールで剣の修行じゃなかったのか?」
「な、何でそれ知って……」
「リーナから聞いた」
あっさりと帰ってきた答えに、俺は思わず固まる。
そのまま頭を抱えて蹲りたい気分になった。
普段会っていない奴には、この特訓のことばれたくなかったのに。
この分じゃあティーチャーも知っているような気がする。
タイムは人の嫌がることをするような奴じゃないが、あいつはよく俺の実家に遊びに言っているらしいから、ミューズが話してしまっている気がする。
本気で座り込もうとしたそのとき、突然肩にぽんっと何かが乗った。
「……で?」
顔を上げてみれば、俺の肩に手を置いたアールが、真っ直ぐに俺を見ている。
「最終訓練中……らしい」
「は?」
「なんか、実戦経験してこいって言われて、ゲートに放り込まれて、ここにいる」
「……そうか。大変だな……」
同情するような視線に、俺は思いっきりいたたまれない気分になる。
思わずため息をつこうとした、そのときだった。
「ん?ということは、お前、戦闘をするために来たのか?」
「まあ、そういうことになるのかな?」
魔法剣を使うために来たのだから、そういうことになるのだろう。
「……いい話があるんだが」
「え?」
「どうせやるなら、手強い魔物を相手にしてみたくないか?」
にやりと笑うアールに嫌な予感がした。
けれど、この国に俺が手強いと思う魔物がいないことは確かで。
嫌な予感を感じながらも、俺はアールの提案に頷いた。



アールに連れてこられたのは、何故か精霊神殿だった。
1年前と少し前のダークマジック帝国との解放戦争の直後に入って以来入ったことのないその場所に、思わず唖然としてしまった。
そんな俺を無視して、アールはすたすたと中に入っていく。
焦った俺は、慌ててあいつの後を追った。

「すまない。待たせた」
「アマスル様!?」
アールがとある一室の扉を開けた途端、中から驚きの声が聞こえる。
その途端アールは大きなため息をついた。
「一応お忍びなんだ。本名で呼ぶのはやめてくれ。それに『様』づけも、だ」
疲れたように言うその言葉は、きっともう何度も言っている言葉なのだろう。
俺は後ろにいるからわからないけれど、きっと今のアールは苦笑しているんじゃないかと思う。
「それよりも、助っ人を連れてきた」
「本当ですかっ!?」
「ああ、入ってくれ」
「あ、ああ。失礼します」
アールに促されて、俺は部屋の中に足を踏み入れた。
その途端、部屋中の視線が自分に向いたのがわかって、正直居づらい。
俺がアールの隣に並んだとき、突然がたんという勢いよく椅子が後ろに倒れる音が響いて、聞き覚えのある声が聞こえた。
「リーフ様っ!?」
「え?」
驚いて視線を動かすと、そこにいたのは見覚えのある、確かひとつ年下の男。
確かこの神殿付きの聖騎士のリーダーで、名前はカスキット=エイム、だったと思う。
「どうしてあなたのような方がここに!?」
彼は俺がエスクールの王子だと知っているから、驚いているのだろう。
「あの、えっと……」
「剣の修行で来ていたところを偶然会ったんだ」
正直に答えるのは恥ずかしくて、迷っているうちに、アールがあっさりとそう答えてしまってくれた。
「あ、ああ」
それに思わず顔を引き攣らせながら頷く。
するとカスキットは心配そうな表情になった。
「よろしいのですか?アール様だけでなく、リーフ様まで」
「だから、『様』はやめろと言っているだろう」
「こればかりは無理です」
アールの抗議にきっぱりと答えると、カスキットはもう一度俺を見る。
そう聞かれても、やっぱり正直に答えられるはずがない。
どう答えようかと悩み出した途端、隣に立っているアールが言った。
「今回の件は国の危機だからな」
え?国の危機?
ちょっと待て。そんな大げさなことだったなんて聞いてないぞ。
「すまないが、自覚がなくて詳しい話はしていないんだ。カスキット、移動しながら話してやってくれ」
「はい」
返事をすると、カスキットは立ち上がって俺の方へとやってきた。
「お久しぶりです、リーフ殿下。共和国聖騎士団団長カスキット=エイムと申します」
「お久しぶりです。確か、レジスタンスのリーダーをやっていた方でしたよね?」
「ええ。覚えていてくださって光栄です」
聞きながら腕を差し出せば、彼は笑顔で答えた。
その笑顔がやけに爽やかなのだけれど、性格がよいためか、この人に不満を抱く気に離れない。
「それでは殿下、こちらへ。道々話をさせていただきます」
「リーフでいいですよ。俺もお忍びなわけだし、あんまりここにいること広められたくないんで……」
苦笑しながらそう言えば、カスキットは「わかりました」と快く了承してくれた。
「えっと……、それで?」
部屋を出てから、前を歩くカスキットに尋ねる。
どうやらちょうど出て行くところだったらしくて、後からアールを始めとした他の面々も俺たちの後ろをついて来ていた。
「実は2週間ほど前から王都の周りで巨大な魔物を見かけたという噂が多数発生しまして」
「はあ……」
「騎士団や城の兵士が見回りに出て、警戒はしていたのですが、3日ほど前にとうとう犠牲者が出てしまったんです」
「犠牲者が?」
「ええ。私の幼馴染みの知人のハンターが、魔物を討とうとして返り討ちにあったと」
「それでこんなに物々しいのか」
話しているうちに、俺たちは神殿の外へ出ていた。
神殿の周りには、その魔物を倒すために募ったんだろう、明らかに騎士や兵士ではない者の姿が見える。
たぶん彼らはハンター、もしくは腕に覚えのある冒険者だ。
その数の多さに思わず唖然として辺りを見回して、ふと気づいた。
「なあ、アール」
「何だ?」
「まさか、今日のお前の休暇って……」
「これに参加するためだ。大臣職の私は、そうでもしないと参加できないからな」
はっきりと言い切るアールに唖然とする。
こいつ、確か国王補佐官じゃなかっただろうか。
そんな大事な立場の人間がこうやって前線に出ていていいのか?
「お前だって、こういった事件のときは自分から動くだろう?」
「そりゃあ……っていうか、うちの場合は俺とミューズが最高司令官だから、俺達が動かないと兵が動かない」
俺たちは王家直属の私服騎士団――正式名称は自由兵団だ――の団長だから、俺たちが指示を出さなければ何も出来ないのだ。
そして俺たち自身も国を守る騎士で兵士で現場指揮官だから、戦場には必ず行く。
「それで、その魔物って?目撃者はいるんですよね?」
アールから視線を外して、隣に立つカスキットに聞いた。
「ええ、それが……」
「カスキットっ!!」
カスキットが言いにくそうに口を開いたそのとき、彼を呼ぶ鋭い声が響いた。
驚いて神殿入口の階段の下を見下ろせば、そこに見覚えるある男が走り寄ってくるのが見えた。
「!?ブレイズっ!?」
カスキットが驚いたように声を上げる。
走ってきたカスキットと同じくらいの年だと思う男は、人ごみを起用にすり抜けて階段を駆け上がってきた。
「こんなこと言うのはプライドが許さねぇけど、助けてくれっ!!」
「何?」
息を切らせて駆け上がってきた男がこんなことをいうのは、多分滅多にないんだろう。
カスキットの顔が、思い切り歪んだ。
しかし、その表情も男の次の言葉に一瞬にして強張った。
「ティアがっ!?」
「!?」
カスキットの茶色い目が大きく見開かれる。
訳がわからずに、俺は2人を交互に見た。
「何でティアが外にっ!?ここで神官長を見張ってるはずだろうっ!?」
「その神官長が抜け出したんで、追ってったんだよ!俺たちっ!!」
ブレイズと呼ばれた男の言葉に、カスキットが驚いた顔をして固まる。
「プリストが……行ったのか…・・?」
「ああ」
カスキットの問いに、ブレイズがはっきりと答える。
「っ!あの馬鹿っ!!」
その瞬間、カスキットはレミアより早いんじゃないかと思わせるほどのスピードで飛び出した。
「あ、おいっ!カスキットっ!!」
ブレイズが慌てて止めるけれど、カスキットはもう人ごみを抜けてしまっていて、姿はとっくに小さくなっている。
「待てよっ!1人で走ってくなんてどっちが馬鹿なんだっ!!」
「あ、おいっ!!」
俺が静止するよりも早く、ブレイズもやはり凄い瞬発力で走り出す。
彼もあっという間に人ごみを抜け、姿が小さくなっていった。
突然置いてけぼりを食らった他の奴らは、驚きの表情で2人が去っていった方向を見ている。
そんな中で、俺はポツリと呟いた。
「……2人で行っちまうのもどうかと思うんだけど……」
「何だかんだで心配なんだろう。ここの神官長はエイム団長の恋人だしな。お前も、襲われたのがセレスなら、無駄とわかっても飛び込んでいくだろう?」
「その前にセレスが自力で解決するか、ルビーが飛び込んでくよ」
「…………そうか」
やめろ、アール。
そんな哀れんだ目で俺を見るな。
俺だってあいつのこと助けたいし、助けようと努力してるさ!
けど、結局最後は違う奴に持っていかれる。
実力が違うんだ!仕方ないだろうっ!
「じゃあ、私たちも行くぞ」
何で俺から目を逸らすんだよ。
とにかく、俺たちはアールのその言葉で漸く街の外に向かって歩き始めたんだ。