SEVEN MAGIG GIRLS

Side Story

魔法剣特訓記 - 1

「はあっ!?魔法剣の特訓をしてくれぇ?」
「うわぁっ!?声がでかいっ!!」
廊下のど真ん中で大声を上げた沙織を、慌てて諫める。
この場合、特訓を頼んだことを大声でばらされるということより、こんな人目につく場所でこの世界では在りえない単語を口にしたことが問題だった。
慌てて辺りを見回すが、周りに人がいる気配はない。
元々人目につかない場所を選んで連れ出したのだから、それも当然なのだけれど、それでも誰も聞かなかったことに安心した。
「あはは。ごめん……」
さすがに自分の声の大きさのまずさに気づいたのか、苦笑しながら沙織が謝ってくる。
そんな彼女に首を振って答えると、俺はしっかりと顔を上げて彼女の顔を見た。
「あの……。俺さ、理由はわかんないけど、魔力持てたろ?でも今までが今までだったから、魔法剣の勉強とか、全然してなくて」
本来、俺の生家であるエスクール王家は魔法剣士の家系だ。
だから、妹のミューズはもちろん、親父だって小さな頃からちゃんと訓練を積んでいて、帝国占領時代の投獄生活さえなければ、今でも現役で戦えたのではないかと、思う。
親父の体力は、あの頃の生活のせいで、昔と比べてずいぶん落ちてしまったから。
そんな家系の生まれである俺は、つい最近まで魔力を持っていなかった。

俺たちが本来住む世界――この世界で言う『異世界』インシングの人間が持つ魔力には、いくつかの法則がある。
そのひとつ、生まれつき魔力を持たない人間は、一生魔力を持つことはないという法則。
生まれたときにこの身に魔力を宿していなかった俺は、本来なら魔力を持たないはずだったのだけれど。
どうにも、あの『勇者の一族』の友人たちによれば、自分は特殊なケースに当てはまってしまった人間らしい。
魔力を持たずに生まれた者が魔力を宿したケース。
ひとつは、先祖に妖精族などの他の種族とのハーフがいた場合。
もうひとつは、魔力を生み出す特殊な道具に触れた場合。
俺の場合は、ごくごく稀なケースである後者の方が当てはまってしまったらしいのだ。

とにかく、ミスリル――この世界では百合って名前の仲間と2人で旅をしていたとき、俺はたまたま魔力を目覚めさせてしまって。
元々魔力を持たなかった俺は、妹や親父が受けている魔法剣の訓練は一切受けていないわけで。
旅の間は無我夢中だったからともかく、はっきり言って魔力の使い方がさっぱりわからない。
「見よう見まねでお前が使ってた奴だけ使って、でも結局大した戦力にはなれなくて。俺にだって一応はプライドがあって、こんなことミューズには頼めないし。だから……」
そうなんだ。
いくらこの中では弱い俺でも、一応男としての、何としてもプライドがある。
だから、正規の訓練を受けているミューズに頼るのが一番だとわかっていても、それは出来ない。
だから、こうして7人の中で唯一剣を扱う彼女に頼んでいるわけなのだけれど。
「……本気?」
じとっとした瞳で、心なしかトーンの落ちた声でそう尋ねられて、思わず肩が震えてしまった。
「ほ、本気だっ!」
慌ててきっぱりとそう返せば、沙織は目の前でため息をつく。
駄目かと思った直後、彼女は再び俺を見上げて尋ねた。
「本当に?」
「ほ、本当だよ……」
自分の声が、震えているような気がする。
沙織もやっぱりそう思ったのか、睨みつけるような目で俺を見上げてきて、正直怖い。
その表情が一瞬強張ったかと思うと、彼女は大きなため息をついた。
「……あんたってさ」
「……へ?」
黙り込んだ沙織が話し始めたことに驚いて、俺は思わず間抜けな声を上げる。
それに呆れたような視線を返しながら、彼女は尋ねた。
「自分の魔力の属性、わかってる?」
「あー……。百合が言うには無じゃないかって。親父もミューズも無だから、間違ってないんじゃないかと思うけど」
両親共に特性の属性を身につけていた記憶なんてないし、何よりミューズが属性を持っていないから、多分自分には属性はないのではないか、と思う。
だからそう答えのだけれど、沙織はやっぱりため息をついた。
俺、何か間違っていたんだろうか。
「……両親はともかく、妹の属性は自分には一切関係ないよ。第一、関係あったら赤美と紀美子の属性、明らかにおかしいでしょう」
「あ……」
言われて、思い出した。
俺の恋人とその姉は姉妹だけれど、その身に宿す魔力の属性は全く別のものだった。
だったら、兄弟間で属性が必ず同じという現象は起こらないはずだ。
「ついでに言うなら、あたしと英里もね」
付け加えるように沙織が言う。
「……えーと……」
それに返す言葉に困って、俺は思いっきり頭を捻り、ない知識を搾り出そうとしたのだけれど。
「……はいはい、悪かった」
ぱんぱんと手を叩かれて、俺は思わず沙織を見た。
「もういいよ。あたしら全員で結果出してるから」
その言葉に驚いて、俺は思わず聞き返す。
「結果出してるって……」
「気になったからね。悪いけどこっそり調べさせてもらったの。紀美子と実沙が言うには、あんたは間違えなく属性を持ってないらしいよ」
俺の恋人である、世界一の魔道士という称号を持つ彼女と、彼女と同じ程度魔法学に詳しい友人。
彼女たちがいうのならば、俺は本当に属性を持っていないのだろう。
「最初に言っとくけど、あたしの属性は『風』。どう頑張っても教えられる呪文は限られるよ。それでもいいの?」
沙織が突然真剣な表情になって問いかけてくる。
それを見た俺も、表情を引き締めた。
「構わない。ある程度身についたら、後は自分で学ぶ気でいたから」
そう答えて、真っ直ぐに沙織を見つめる。
自分を見つめる、ほんの少し緑が宿ったその瞳が、楽しそうに笑った気がした。
「OK。じゃあ、さっそく明日から始めましょうか」
「……え?明日?」
了承してくれたというのに、突然明日と言われて、思わず聞き返す。
そうすれば、彼女はにっこりと笑った。
「今日はもう仕事受けちゃってるから駄目なのよ」
仕事というのは、きっとハンターの仕事のことだろう。
以前起こった、彼女たち一族の宝である『魔法の水晶』が奪われたときの事件の後から、リーダーである赤美―――本当はルビーって言う乱暴女―――の提案で、俺たちはずっとインシングで情報収集をしている。
彼女とその親友であり少し遠い親戚であるあいつは、向こうでの本業をしながら情報を集めているって言う話だから。
「わかった。じゃあ明日」
「うん。放課後、資料室に集合だからね」
「わかった」
にこりと笑って集合場所を告げる沙織に素直に言葉を返す。
ふと、大切なことを思いついた俺は、一歩下がると彼女に向かって頭を下げた。
「よろしくお願いします、師匠」
その言葉を聞いた彼女は、楽しそうに笑っていた。