SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter7 吸血鬼

27:連結転移

森の木々がざわざわと揺れる。
少しして、森の中から2人の人物が姿を見せた。
それぞれ明るさの違う紫の髪を持った少女と女。
女の方は町を見ると、少女の方を振り返った。
「この町でいいのか?」
「ええ。というかアール。あなたこの隣の町は知らないんでしょう?」
そう尋ねられ、アールは困ったような笑みを浮かべた。
「まあ、な」
2人の本当の目的地は、本当はこの町の隣の町に近い場所にある洞窟だ。
けれど、少女の言うとおり、アールはその町を知らない。
だから、たまたま来たことのある、エスクールの王都に近いこの町を転移先に選んだのだ。

ここはエスクールの北東部にある町だ。
ここより少し南に行った町の海側の森の中にある洞窟を目指し、2人はこの町にやってきた。
あのあと、2人はエルランドの森から一度マジック共和国に戻った。
ゲートを開くことが出来なかったのは、瘴気があの森に何らかの影響を与えたせいかもしれないと考え、場所を移して試すことにした。
けれど、国を移しても、そしてリーナに頼んでも、アースへのゲートを開くことはできなかった。
途方にくれたそのとき、ベリーが思いついたのは、精霊に原因を尋ねるという手段だった。
精霊ならば、この事態についても何か知っているかもしれない。
元々、闇の精霊に『鍵』について聞きに戻るはずだったのだ。
だから聞きに行ってみようという話になり、2人はこの町までやってきたのだった。

「しかし……」
町の入り口に立ったアールが、不意に周囲を見回す。
「妙に人が少ないな」
「え?」
その言葉に、ベリーも周囲を見回した。
確かに、まだ昼間だというのに町の中に人の姿はあまりないように見えた。
「本当だわ」
「この町、いつもはこうではないんだろう?」
「住んでいるわけじゃないからわからないけれど」
そう、住んでいるわけではない。
1人で修行をしていたときも、傷薬を買うのは洞窟に近い隣の町だった。
「少なくとも、前に来たときはこんなに人がいないなんてことはなかったと思うけど……」
初めて闇の洞窟に向かう途中で立ち寄ったときは、こんなに活気のない町ではなかったと思う。
そう思いながらもう一度周囲を見回した。
「……少ないと言うか、これは……」
「何かを警戒して立て篭もっている感じだな」
人がいないというより、閉じ篭っているというような雰囲気だった。
ほとんどの家が、商店すらも、その入り口を閉じている。
まるで、何かに襲われることを警戒しているようだった。
「この町、早く出た方がよさそうね」
元々、この町は抜けるだけの予定だった。
体を休めることも荷物の補給も、共にマジック共和国で済んでいる。
今いるのは北側の門だ。
さっさと南側の門へ抜けて、次の町に行った方がよさそうだった。
そう判断し、アールを促そうとした、そのときだった。
「おっと……」
ふと、声が聞こえた。
「アール?」
不思議に思って振り返れば、アールの傍にいつの間にか幼い少年がいた。
その様子からすると、おそらく少年がアールにぶつかってきたのだろう。
「大丈夫か?」
アールが心配そうに少年を覗き込む。
「……せ」
その途端、少年が何かを呟いた。
「ん?」
それが聞き取れずに尋ね返した途端、少年が勢いよく顔を上げた。
「お父さんを帰せっ!!」
途端に少年はぽかぽかとアールを叩き始めたのだ。
「え?」
「お、おい。坊主?」
突然何を言われたのかわからず、ベリーとアールは顔を見合わせる。
「帰せっ!帰せよっ!!お前たちが連れてったんだろうっ!!」
「お、おいおい。何のことだ?」
「とぼけるなっ!!突然出てきたお前たちだって、あいつらの仲間に決まってる!!」
叫び続ける少年の言葉の意味が、今ここに来たばかりの自分たちにわかるはずもない。
困惑してこちらを見るアールに、ベリーは首を振ることしかできなかった。
「ガクっ!!」
村の方から声がして、2人ははっと顔を上げる。
見れば、広場の方から1人の女性がこちらに向かって走ってくるところだった。
「この子のお母様ですか?」
「は、はい!うちの子が失礼をして……っ!」
「いや、別にかまわないが……」
慌てて駆け寄ってきた女性が、アールを叩き続けていた少年を引き剥がそうとする。
けれど、少年は素直に離れようとしなかった。
「離せよ母さんっ!!こいつらが……っ!」
「やめなさいガクっ!!」
尚もアールを殴ろうとする少年を、母親が叱る。
その様子を見て、2人は困惑したまま再度顔を見合わせた。
「何がなんだか、だな……」
「これは、王都に寄って情報を確認した方がよかったかしらね」
「ミューズ王女のところか?」
「ええ」
ずっと他の国にいた自分たちには、今のこの国の状況がわからない。
せめて、それを確認してくるべきだったのだろうか。
「行くか?」
「ん……」
アールに尋ねられて、すぐに答えることが出来なかった。
今王都へ行って国の状況を確認したとしても、自分たちに何か出来るわけでもない。
それがわかっていたから、すぐに頷くことは出来なかった。
だから迷った。
「うぎゃあああああっ!!」
考え込もうとしたその瞬間、その悲鳴が耳に飛び込んできた。
「え!?」
「何だ!?」
突然のそれに2人は振り返る。
視線を向けたのは、先ほど母親がやってきた村の広場。
そこに、先ほどまではなかったはずの人影があった。
ゆらゆらと揺れるそれに、ベリーは目を見開く。
「あ、れは……」
「お父さんっ!!」
その瞬間、アールを叩き続けていた少年が弾かれたように走り出した。
「ガクっ!!」
その姿を見た母親が、顔を真っ青にして叫ぶ。
「お父さんお父さんっ!!」
「ガクっ!駄目よっ!戻ってっ!!」
父親を呼びながら走っていく少年は、真っ直ぐに広場に現れた人影の群れを目指していく。
「おとう……」
その中の1人に抱きつこうとしたのか、少年は両手を伸ばして大地を蹴ろうとした。
けれど、その手が父親の体に触れることはなかった。
抱きつこうとする少年の体を、男が腕を振るって弾き飛ばしたのだ。
その勢いのまま、少年の体が地面に叩きつけられる。
「おとう……さ……」
それでも父親に手を伸ばそうとする少年に向かい、父親はナイフを握った腕を振り上げた。
「ガクうっ!!」
母親の叫びが辺りに響く。
少年は、信じられないとばかりに目を見開いた。
「……っ!」
それを見た瞬間、ベリーは大地を蹴っていた。
指輪にしていた魔法の水晶を走りながらナックルに変化させる。
父親が短剣を振り下ろした瞬間、ベリーは父親と少年の間に飛び込み、父親の腕を掴み取った。
「おねえちゃ……」
少年の声を無視して足を振り上げ、目の前の男の腹に叩き込む。
腕を離したと同時に男の体が他の人影の方に投げ出されたのを確認して、叫んだ。
「アールっ!」
「出でよっ!幻界の獣っ!」
アールの前に魔法陣が現れる。
そこから四足の黒い獣が飛び出してきた。
「彼の者を我が下へっ!」
アールが命令すると、獣がこちらに向かって走ってくる。
獣は少年の服の襟を銜えると、そのまま彼を軽々と持ち上げ、アールの下へ戻っていく。
アールの傍に戻った獣は、少年をその場に下ろすと、そのまま空気に溶けるように消えていった。
「ガクっ!」
「おかあさ……」
「まだ動かすなっ!」
少年を抱き起こそうとした母親を制し、アールは彼の傍に膝をつく。
「私は、こういうのは苦手なんだがな……」
ため息混じりに呟いて、少年に向かって手を翳す。
口の中で呪文を詠唱する。
彼女の手から淡い光が発せられたのを見て、ベリーは意識を目の前の敵に集中した。
「牙……っ、それに、この色……っ」
知っている。
この姿を持った者を、自分たちは知っている。
彼らは、ザード城の宝物庫であった吸血鬼と同じ姿をしていた。
少年から遠ざけようと男を攻撃した際に、彼らはこちらを敵と認識したらしい。
ぎろりとこちらを睨みつける吸血鬼たちが、ベリーの血を吸おうと一斉に襲い掛かってきた。
「く……っ!!」
「ベリーっ!!」
少年の手当てをしているアールが、自分の名を呼ぶ。
声は聞こえていたけれど、答えを返している余裕はなかった。
「結界に封じられし者よ。我が拳に力を与えよ」
短く呪文を詠唱する。
ナックルが薄っすらと光を帯びたことを確認すると、ベリーは迫ってくる吸血鬼たちを睨みつけた。
「封魔法烈風拳っ!」
そのまま拳で目の前の空間を打つ。
その瞬間、その場所から風が吹き怒る。
それは刃となり、襲い掛かろうとした吸血鬼たちを切り刻む。
その群れの中から飛び出してきた者を見た瞬間、ベリーは後ろへ飛んだ。
「翔駆孔波っ!!」
拳に付加した力を足に移して、飛び出してきた吸血鬼に叩き込む。
その顔を踏み台にもう一度飛び上がると、傍に来ていたもう1匹にも蹴りを叩き込んだ。
それを横目で見ていたアールは、少年に翳していた手を下ろすと、傍にいた母親へ顔を向けた。
「応急処置はした。あとで法術師か医者に見せてくれ」
「あ、ありがとうございます!」
今にも泣き出しそうな母親に向かい、アールは礼は必要ないと小さく首を振る。
「この子が起きる前に、行け」
「は、はい!」
ほんの少しだけ口調を強くしてそう言えば、母親は少年を抱きかかえて広場とは別の方向に走っていく。
2人の姿が見えなくなったのを確認すると、アールは一度目を閉じた。
そのまま手を胸の前に翳す。
「光よ。今ここに形を持ち、我が障害を弾き飛ばさん」
手の中に光の玉が現れる。
目を開くと、ベリーの傍にいる吸血鬼たちを睨みつけた。
「ライトボールっ!!」
手の中の光の玉をふたつに割り、そのまま吸血鬼たちに投げつける。
放たれた玉は真っ直ぐに飛び、ベリーの周囲にいる吸血鬼たちを薙ぎ払った。
「ベリー!」
そのまま傍に駆け寄れば、ベリーは視線だけでこちらを見た。
「さっきの人たちは?」
「逃がした」
彼女と背中合わせに立ち、再び呪文を練り始める。
「あの子は?」
「応急処置はした。あとは専門の連中に見せないとわからん」
「そう……」
背中越しにほっとしたような気配が伝わってくる。
それにくすりと笑みを漏らすと、アールは周囲にいる吸血鬼を睨みつけた。
そのまま練り上げた光の呪文を吸血鬼に向かって放つ。
その呪文を潜り抜けた吸血鬼に、拳を叩き込む。
その直後、すぐ傍から別の吸血鬼が飛び掛ってきた。
「ちぃっ!」
体勢を変え、襲い掛かってきたそれを蹴り飛ばす。
吸血鬼の体が呪文で倒れた吸血鬼たちの中に倒れ込んだのを見て、ベリーは小さく息を吐き出した。
しかし、すぐに顔を挙げ、気を引き締める。
「どうやら、こいつらだけじゃないみたいだな」
傍で聞こえたアールの言葉に、視線だけをそちらに向ける。
その瞬間、ベリーはその紫の瞳を大きく見開いた。
南門の方から、今倒した者たちと同じ姿をした者たちがゆらゆらとこちらに向かってきていたのだ。
「こんなに……・っ!」
「これじゃあ、私たちだけじゃきりがないぞ」
今倒したのは、この町の小さな広場を埋めてしまうほどの人数。
ざっと見たところ、南門からやってくる吸血鬼たちの人数はそれより多い。
ベリーとアール2人だけでは、あれら全てを倒すのは無理がある。
「もうちょっとで、神殿だっていうのに……!」
そこまで行けば、次元の扉が開かない理由も次の『鍵』の在処もわかるかもしれないのに。
そう思って、思わずそう口にしてしまったそのときだった。

「ほう。この町の近くに神殿があるのか」

耳に飛び込んできたその声に、聞き覚えがあった。
反射的に振り返る。
そこにはいつの間にか吸血鬼以外の何者かが立っていた。
いや、彼も吸血鬼だったはずだ。
違うと感じたのは、まるで意思を持たない人形のような他の吸血鬼たちとは違い、意思のはっきりとしたその瞳のせいだろう。
その姿を見て、ベリーは大きく目を見開いた。
「お前は、あのときの……!?」
息を飲むようなアールの気配が伝わる。
そう、目の前の男を、彼女たちは知っていた。
「手ごわい人間がいると聞いてきてみれば……。また会ったな」
銀髪の青年が、血のような真紅の瞳でこちらを見て、微笑む。
「お前は、スターシアの……っ」
「先日は失礼。まさかあんなところに女性が2人いるとは思わなかったのでな」
くすくすと銀髪の吸血鬼が笑う。
彼は間違いなく、ザード城の宝物庫で遭遇したあの吸血鬼だった。
「再び見舞えたのは宿命か?くく……」
「冗談じゃないわ」
ベリーは銀髪の吸血鬼を睨みつけ、吐き捨てる。
その瞬間、ぴたりと吸血鬼は声を止めた。
「まあ、そちらからすればそうだろうな」
顔に笑みを湛えたままの真紅の瞳がこちらを睨みつける。
「だが、我々は貴様を探していたと言ったら?」
そう言って、吸血鬼がくすりと笑う。
「……なんだと?」
くすくすと笑う吸血鬼をアールが睨みつける。
「精霊の勇者の血を引く末裔」
吸血鬼が、羽織った何かを翻すように片手を振る。
その動きに合わせるように、彼の背に今までなかったはずの外套が現れた。
「あのブローチを持ち去ったということは、貴様はそれだろう?」
吸血鬼の言葉に、ベリーはほんの少しだけ目を見開く。
その表情の変化を悟られないよう、拳を強く握ると静かに吸血鬼を睨み返した。
「……なんのこと?」
「とぼけても無駄だ。あのブローチは、彼の勇者が遺したものだということはわかっているのでな」
吸血鬼がくすくすと笑いながら言葉を続ける。
「それをその幻影から託された。それが末裔以外の何だと言う?」
首を傾げ、尋ねるような口調でこちらを追い詰めようとする吸血鬼を見て、ベリーははっと息を吐き出す。
「ただの通りすがりの用心棒よ」
「ほう?用心棒が賊相手に逃げ出したのか」
その言葉に、一瞬言葉に詰まった。
用心棒を引き受けておいて、雇い主に何も言わずに逃げ出したのは事実だったからだ。
その一瞬を吸血鬼は見逃さなかったらしい。
「まあ、いい。貴様らが持ち去ったそのブローチ、渡してもらおうか」
「何故?」
「貴様らに言う必要はない」
「なら、こちらも渡す必要はないわ」
ただ手を向ける吸血鬼に向かい、ベリーがはっきりと言い返す。
一瞬驚いたように目を瞠った吸血鬼は、次の瞬間ふっと笑った。
「そうか」
吸血鬼が、その右手をゆっくりと空へと向けて伸ばす。
「ならば、貴様らをこちらに引き入れてから奪うとしよう」
伸ばされた手が振り下ろされる。
その途端、それまでずっとその場に留まっていた吸血鬼たちが一斉に動き出した。
砂煙を上げて迫ってくるそれを見て、ベリーは息を呑む。
たった2人で、これだけの人数を相手にするのは無理だ。
呪文を使って薙ぎ払うにも無理がある。

まずい。
逃げられない。

そう思ったその瞬間、吸血鬼が飛び掛ってきた。
一瞬死を覚悟したそのとき、ベリーの腕を掴もうとしていた吸血鬼の体が何の前触れもなく弾け飛んだ。
「え……」
目の前で何が起こったのかわからなかった。
それはアールも同じだったらしい。
「な、んだ……?」
よく見れば、自分とアールの周囲を光が包んでいた。
その光が壁となって、吸血鬼たちの接近を防いでいた。
「これは……」
『フルーティア』
唖然としていると、耳元で声が聞こえた。
はっとそちらに視線を向けると、いつの間にかそこに見慣れた青年が立っていた。
いや、立っていたと言うのは間違いだ。
その青年は、宙に浮かんでいた。
「ウィズダム……?」
名を呼べば、彼はその大地と同じ色の瞳でこちらを見る。
ミスリルと契約しているはずの彼が何故ここに。
「一体どうし……」
『神殿へ飛べ』
それを尋ねようとしていた声を遮られ、言われた言葉の意味が一瞬わからなかった。
「え?」
『ダークネスからの伝言だ。神殿へ飛べ。そちらの女がお前とシンクロすれば、術師が目的地を知らずとも飛べるはずだ』
「でも、あの場所は……」
『いいから言うとおりにしろ。長くは持たないぞ』
その言葉で、この光の壁は彼が作り出しているのだと気づく。
ウィズダムが自分とアールを守ってくれているのだ。
周囲を見回す。
吸血鬼がぶつかるたびに壁の震えが大きくなっている。
迷っている場合ではない。
そんなことは、嫌というほどわかっていた。
「……っ、アール」
名を呼んで振り返れば、アールは戸惑ったように顔を上げた。
「できないことはないと思うが……」
「お願い」
アールの目が、一瞬迷ったように動く。
けれどそれは、すぐにこちらを見た。
「……わかった。手を」
頷いて差し出された手を取る。
万が一にも離れないように力を込めて、目を閉じた。
それを見たアールも、軽い深呼吸をして目を閉じる。
『これから向かう場所を思い描け。そして、それを意識の外に押し付けるイメージをしろ』
「……ええ」
ウィズダムに言われたとおり、頭の中に闇の精霊の住まう神殿を思い描く。
力強く握られた手から、何か暖かいものが流れ込んでくるのを感じた。
それを認識した瞬間、今度は逆にその手を通して自分から何かが流れ出ていく感覚を覚える。
「我ここに、空間の精霊に誓わん。精霊よ。今、汝の力を我に貸し与えん。空間を開き、次元を越え、我らを目指すべき地へと誘わん」
アールの声が耳に届く。
その声に応えようと、より一層はっきりと頭の中に神殿をイメージする。
「テレポーションっ!」
アールの声が聞こえた瞬間、体が宙に浮いたような気がした。



2人の姿がその場から掻き消える。
去っていく気配を見送りながら、ウィズダムはぎろりと銀髪の吸血鬼を睨みつけた。
目が合った瞬間、吸血鬼はびくりと体を震わせた。
『失せろ』
「な、何を……」
言い返そうとした吸血鬼を、ウィズダムはより一層鋭い目で睨みつけた。
『二度と言わん。失せろ』
銀髪の吸血鬼が目を見開いて息を呑む。
「ち……っ」
吸血鬼は舌打ちをすると、他の吸血鬼たちに退くよう指示を出した。
退き始めたそれを見ながら、ウィズダムは舌打ちをする。
『この貸しは高くつくぞ、ダークネス』
少女たちの去った方向を見てそう呟くと、ウィズダムは姿を消す。
全てが去ったその場所には、戦闘の痕跡以外、何も残っていなかった。

2012.01.24