SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter3 魔妖精

10:サーカス

あの後2人で意見を交わしたけれど、結局あの光が何なのかは全くわからなかった。
エスクールに戻って精霊神に聞いてみればいいのかもしれないが、生憎今の自分たちにそんな時間はない。
ベリーに事情を話し、無理矢理にでも妖精神殿の警護を承諾してもらうと、2人は翌日にはあの町を発っていた。
当然ベリーをティーチャーの呪文でエスクールに送った後に。



ティーチャーの言葉に従い、馬にドーピングをするのをやめて飛ばすこと3日ほど。
最初よりずいぶん長い時間をかけて、2人は次の町に辿り着いた。
「うわぁ~」
タイムが馬に労わりの言葉をかけている横で、ティーチャーが思わず声を上げる。
「……ティーチャー。田舎者丸出し」
「だって!すごいよっ!あれっ!!」
そう言ってティーチャーが差したのは、町外れの広場か何かに作られたのだろう巨大なテント。
その華やかさと大きさ、周りの賑やかさから見て、おそらくサーカスのテントだろう。

嫌な時期に来ちゃったなぁ。

そう思ってため息をついたけれど、はしゃいでいるティーチャーは気づかない。
「ねぇ。アースにもサーカスってあるんでしょう?どんなの?どんなの?」
「あたしに答えを求めるか」
目を輝かせて尋ねるティーチャーに、タイムは再びため息をつく。
「悪いけど、あたしはサーカスって行ったことないのよ」
「えー?どうして?」
「親元から離れて1人暮らししてるのよ?いくら補助金もらってても、生活費と本が買える程度だし、行けるわけないじゃない。去年まではバイトだってできなかったし」
「バイト?」
きょとんとして、ティーチャーが首を傾げる。
「あー……、本職じゃないけど、仕事をさせてもらうというか……。まあ内職のことだと思って」
尤も、魔燐学園は基本的にアルバイトは禁止していたから、許可を取って長期休業中にやるしかないのだけれど。
「ふーん。でもさぁ。タイムって他の人たちと違って姉兄いるんでしょう?」
「って言ってもちゃんとした仕事に就いてるのって姉さんだけだし。下の2人の兄さんはまだ学生だからねぇ」
そこまで言って、一度大きくため息をつく。
「それに、アースはこっちと違って国ごとに通貨が違うの。仕送りだって、してもらってはいるけど、毎回微妙に金額が変わっちゃうのよ」
姉兄は別の国に住んでるからねと付け足して、タイムはティーチャーから視線を外した。
「じゃあ、なおさら……」
「駄目」
「なんでよーっ!」
「資金節約。ただでさえ今の収入源は魔物が時々持ってる金だって言うのに、サーカスなんて入ったらすぐなくなっちゃうでしょ!」
ハンターではない冒険者は、同じ目的地へ向かう商隊の護衛や賞金のかかった魔物退治などをして金を得るものなのだけれど、生憎今エルランドを旅しようとする商隊はない。
魔物退治もしている暇はなくて、時々街道で出会う魔物が持っているものを奪うことでしか金を手に入れる術がなかった。
その金だって魔物が人間を襲って手に入れただろう物だから、使っていていい気分はしなかったけれど、今は文句を言っている場合ではない。
「ちぇ~、ケチー」
「ケチでいいよ。人間はお金がなきゃ生活できないんだから」
冷たく言い放つと馬の手綱を取り、ティーチャーを置いて町の中へ入っていこうとする。
「あ」
ふと呟いて、何かを思いついたように顔を上げると、彼女は頬を膨らませているティーチャーを振り返った。
「あたしは行かないけど、お金のかからない方法でなら見てきていいよ」
「へ?」
言葉の意味がわからなくて、ティーチャーはきょとんとタイムを見つめる。
「あんたの本当の大きさは?」
「あ!」
言われて漸く言葉の意味に気づいたらしく、ティーチャーはぱっと笑顔になった。
「本当っ?」
「その方法でなら、ね」
「やったーっ!行ってきますっ!」
飛び上がって喜んだかと思えば、そのまま彼女はテントの方へ向かって走っていく。
「あたしは宿にいるからねー!」
「はーい!」
嬉しそうに手を振って走っていくティーチャーを見て、タイムは笑みを浮かべて苦笑した。



テント近くの物陰に隠れて、着たままの上着をとりあえず脱ぐ。
どうしようかと考えて、羽を出して木の上へと飛び上がった。
ここならば、鳥以外は誰も来ることは出来ないはずだ。
そう考えて上着を枝にかける。
口の中で小さく言葉を紡げば、たちまち光がティーチャーを包んだ。
光はどんどん小さくなり、連動するように彼女の体も小さくなる。
光が完全に消えた頃には、ティーチャーは元の――妖精の姿に戻っていた。
「えへへ。あとは明かり取りの穴から中に入っちゃえばOKだよね」
そう呟いて、テントへ向かって飛び立つ。
タイムの言った金のかからない方法。
それがこの元の大きさに戻ってテントに入り込む方法だった。

明かり取りのために開けられた穴から、すいっと中に入る。
観客席に下りるわけにも行かず、柱の上部、テントを支えるための梁の上にティーチャーは腰を下ろした。
眼下ではすでに演技が始まっていて、時折客が歓声を上げる。
呪文を少し細工すればできるような芸当も、ほとんど町から出ない一般人は知らなくて、冒険者が普段やっているような些細な事にさえ歓声を上げていた。
「すごーいっ!ライオンが火を噴いたーっ!」
そのことを知っているはずのティーチャーでさえ、眼下で行われている演技に目を輝かせている。
その演技にはそれだけ魅力があるということなのだろう。
ライオンが引っ込んだかと思うと、出てきたタキシードの男が持っていた杖で天井を指す。
気づかれたのかと思って身を潜めてみれば、観客から歓声が響いた。
皆が一斉に自分がいるのとは違う場所に目を向けている。
不思議に思い、ティーチャーもそちらへ顔を向けた。
見れば、梯子で登るようになっているのだろう、近くの台の上に人が立っていて、両端を天井から吊ってある棒を持って手を振っていた。
フードつきの服を着ているせいで顔が隠れてしまっていたから、男か女かはわからない。
タキシードの男が杖を下ろすと、その人物は両手で棒を持ち、床を蹴った。
「わぁっ!?」
天井から吊るってある棒が綺麗な弧を描く。
それを目で追っていて、ふと、反対側にもう1人、棒に足をかけ、逆さまにぶら下がっている男がいることに気づいた。
「何するんだろう?」
見つからないように柱の影に隠れて、じっと見る。
演技に集中している彼らがティーチャーに気づくとは思えないけれど、目の前の光景に夢中の彼女の頭にはそんな考えなど浮かんでこない。
フードを被った人物の方の棒に勢いがつき始めたと思ったその時だった。
男の方にぎりぎりまで近づいた瞬間、フードの人物が棒から手を離す。
そのまま足から高く、それこそ天井近くまで飛び上がって体を丸めた。
くるくると、上昇が終わるまで何度も宙返りを続ける。
そうして、もう一度体を伸ばしたときには頭と足の位置は逆になり、体は落下を始めていた。
「危ないっ!」
叫んでしまって、慌てて口を閉じる。
けれど誰も気づかなかったようで、ティーチャーはほっと胸を撫で下ろした。
逆さまにぶら下がっていた男が、棒を揺らしてフードの人物に手を伸ばす。
ぱしんっと微かな音が響いて、フードの人物と男の手が重なった。
お互いに相手の手をぎゅっと握る。
フードの人物は再び足の方が下になったけれど、見事に男の手を掴んでそこへぶら下がった。
落ちてきた人間を捕まえた反動で天井から吊るった棒が大きく弧を描く。
そうしてもう一度、フードの人物が男の手を離れて宙に飛び出した。
今度は何もない場所へ。
先ほどあの人物が使っていた棒は、既に動くのを止めてしまっていて届かない。
誰もが落ちると、そう思った。
けれど、そんな観客の予想に反して、フードの人物は何もない空中で何かに着地するように落下を止めた。
いや、よく見れば、彼の人の足元には何か透明の球体が浮かんでいる。
それが何かを認識した瞬間、ティーチャーは呆然と演技を見つめていた目を大きく見開いた。
「水晶術っ!?」
彼の人の足元にあるのは、確かに水晶術師と呼ばれる人間が武器として使う水晶球――オーブで。
目の前の人物が空中に浮いているのは、使える人物の絶対数が少ないはずのその術を使っているからだと気づいて、ティーチャーは思わず声を上げていた。
その声に反応したかのようにオーブに着地したフードの人物が顔を上げ、両手を大きく振り上げた。
客席から盛大な拍手が聞こえる。
それを見て笑おうとしたのだろう。
彼の人が頭を動かした途端、被っていたフードが頭の後ろに落ちた。
「……っ!?あの人っ!?」
フードの下から出てきた見覚えのある顔に、思わずティーチャーは大きな声で叫ぶ。
慌てて口を閉じると、そのまま柱を蹴ってテントの外へと飛び出した。

あの髪、あの顔、それに水晶術!
絶対に間違いない!

「知らせなきゃっ!」
普段では信じられない速さでテントを離れたティーチャーは、上着の回収も忘れ、タイムを探して町の方へと飛んでいった。



夕方、サーカスの公演が終わる頃。
漸くタイムのいる宿を見つけたティーチャーは、彼女と一緒にテントの側まで戻ってきていた。
「本当にあいつだったの?」
何度目かのタイムの問いにこくりと頷く。
「間違いないよ。髪の色同じだったし、水晶術使ってた」
水晶術は、魔道士の中でも属性を持たない者、それも高位の魔道士だけが扱うことのできる無属性の高位呪文だ。
自分たちの知る限り、それを使えるのはただ1人。
「サーカスにいるなんて。あいつらしいと言えばらしいけど」
「……それにしても、タイム、なんか慣れてない?」
公演用のテントの裏、本来関係者以外立ち入り禁止であるテントの密集地を、辺りに人がいないか確認してするりするりと抜けていく。
そんな彼女の行動に、半ば呆れたようにティーチャーが尋ねた。
「伊達に盗賊の親友は持ってないから」
きっぱりと言われた言葉にティーチャーは思わず苦笑する。
その時、突然タイムが足を止めた。
「タイム?」
「しっ!」
小声で制して、タイムは慎重にテントの影から顔を出す。
それに習うようにして、ひょこっとティーチャーもテントの向こう側を覗いた。
サーカスの団員だろう人たちが集まっている。
その前に数人の武器を持った少年たちが立っていた。
背中から生えた蝙蝠のような翼。
長く伸ばされた鋭い爪。
明らかに人間ではない彼らの容姿に、ティーチャーは見覚えがあった。
以前彼らの姿を見たのは本の中だったから、心当たりがある、と言うべきか。
「バンバード!」
「バンバード?」
聞き慣れない言葉に、タイムは思わず団員たちから視線を外して尋ねた。
「吸血鬼の一種だよ。人の血を吸わなくても食べ物があれば生きていける。そういう種族だったと思う」
「吸血鬼……」
帝国との戦いを思い出し、ぽつりと呟いたタイムの言葉にティーチャーは頷いた。
「だけどバンバードって、どっちかって言えば人間に対して友好的な魔族なのに。ここで何してるんだろう?」
「何かトラブルでもあったんでしょう」
言いながら、タイムはもう一度テントの向こうに視線を移した。
それと同時に聞こえてきた怒鳴り声に、ティーチャーは思わずびくっと体を震わせる。
「さっきからわしらは知らんと言っておるだろうがっ!!」
タキシードを着た中年の男が怒鳴り返す声が聞こえた。
何か話そうとしたティーチャーを制して、タイムは向こうの会話に神経を集中する。
「ふざけんなっ!静かに暮らしてただけの俺らの村潰しておいて、言い訳できると思うなっ!!」
「えっ!?」
「は……?」

バンバードの村を、このサーカス団が潰した?

「そんな!そんなのっ!?」
「普通に考えて、無理だよね」
友好的な種族と言っても、魔族は魔族。
人間より戦闘能力が高いのは否定できない。
さらに相手は、サーカスで魔法慣れしていると言っても、ほとんどが戦い方を知らない人間だ。
その場にいるどの団員も戦闘をするようには見えない。
旅の道中に護衛のために傭兵を雇っていたとしても、こんなメンバーで魔族の村を襲うなど無理がある。
「本当に知らないのだ。お前たちの思い違いではないのかね?」
声を落ち着かせてタキシードの男が言った。
その頬を緊張のためだろう、汗が流れ落ちる。
おそらく相手を落ち着かせようという作戦だったのだろう。
しかし、それで彼らに村を潰されたと思っている相手が引いてくれるはずがない。
「よくもぬけぬけとっ!!」
叫んだリーダーらしき少年が、その長い爪が生えた腕を思い切り振り上げた。
「ひ……っ!?」
タキシードの男が恐怖に小さく悲鳴を上げたときだった。
「……うわっ!?」
振り上げた腕に勢いよく何かがぶつかって、少年は思わず悲鳴を上げた。
すぐに睨み返せば、少年の側から宙に浮かんでいる水晶球が離れていく。
その水晶球の向かう先にいるのは、フードつきの服を着た若草色の髪の少女。
「団長に何かしたら、許さないんだからっ!!」
凛として叫ぶ少女を少年が睨む。
「上等だっ!!このアマっ!!」
先端に刃物のついた長い棒を振り上げて、少年が少女に襲い掛かる。
形と大きさからして、おそらくあれは斧なのだろう。
「行けぇっ!!」
自分の周りを飛んでいた水晶球に向かって命じる。
水晶球はすぐに向きを変えると、少年へと突っ込んでいく。
「……がっ!?」
重い斧を持っている彼がそう簡単に素早いそれを避けられるはずもなく、水晶球は少年の腹に突進し、弾き飛ばした。
「やったっ!」
少女がぱっと笑顔を浮かべた、その瞬間。
「何がやっただ、このクソアマっ!!」
「え……?わああっ!?」
いつの間にか隣に来ていた、こちらは青年だろうバンバードが振り下ろした斧を何とか避ける。
「わあっ!?」
けれど少女はその瞬間にバランスを崩して、そのままその場に倒れてしまう。
ごんっと言う音が聞こえたから、体のどこかを何かにぶつけたのかもしれない。
「もらったぁっ!!」
起き上がろうとしない少女めがけて青年が斧を振り下ろそうとする。
「ブリザードっ!!」
その瞬間どこからともなく声が響いて、吹雪がバンバードたちを襲った。
突然襲い掛かった氷が形成するそれは、薄い服しか着ていない彼らの肌を裂いていく。
「ぎゃああっ!?」
「だ、誰だっ!!」
リーダーらしき少年が声がした方を見て叫ぶ。
「通りすがりの冒険者よ」
ベリーの時と同じことを言って、タイムはテントの影から出た。
その手にはしっかりと棍を握っている。
「冒険者ぁ?」
「確か旅する奴のこと、人間はそういうんだ」
少年に別のバンバードがこそっと告げた。
「旅人か。何で俺らの邪魔をする?」
「別に。たまたま通りかかったら、どう見てもサーカスの人たちの方が不利だったから」
あたしは弱い者の味方なのと付け足して、タイムは右手で持っていた棍を両手でしっかりと握る。
「退いた方がいいよ。あんたたちに何があったかは知らない。けど、もしここで暴れて、この騒ぎが国家レベルになったら、本当に一族根絶やしにされるわよ」
妙に重い雰囲気を持ったその言葉に、思わずバンバードたちが押し黙る。
「怯むんじゃねぇっ!これは脅しだっ!!」
リーダーらしき少年だけが怯えずに仲間を怒鳴りつけた。
「脅しって言えば脅しだけどねぇ」
ある意味事実なんだけどと呟いて、タイムはもう一度顔を上げる。
「第一、考えてみなさいよっ!たかが魔力を戦いに使えない人間のサーカス団が、あんたたちの村襲って無事だと思うの?」
逆ならばいくらでも例を聞くけれど、このケースは今までに一度もなかった。
そもそも村を襲おうと思っても、返り討ちにあって終わりのはずである。
それがわかっているから人間は、自分の腕に相当な自信を持っている冒険者でない限り魔族の村に近づこうとしないはずだ。
「うるせぇっ!!誰がなんと言おうと俺は見たんだっ!!そいつが焼けた村から出てきたのをっ!!」
叫んで、少年が団長と呼ばれたタキシードの男を指差した。
「だから、わしは知らんと……」

「ねぇ。あんたたちの村が襲われたのって、いつ?」

唐突に辺りに響いたその言葉に、全員の視線が自然と声の主に集まる。
先ほどまで倒れていたと思った若草の髪の少女が、倒れたときに打ったらしい頭を押さえて立ち上がっていた。
「何を……」
「ねぇ、いつ?」
先ほどとは全く違う厳しい口調。
その声に微かに恐怖を感じて、少年は息を呑む。
先ほどまで、ほんの少しだったけれど、震えていた少女と同じ人物だとは思えなかった。
「い、1週間前だ。それがどうした?」
「1週間っ!?」
団員の1人が声を上げた。
あれはおそらくティーチャーの見た――タイム曰く空中ブランコという名前らしい――棒に逆さまにぶら下がっていた男だ。
「やっぱり!何かの間違いだっ!わしらじゃないっ!」
「こいつ……っ!!」
「本当だよ。1週間前って言えば、前の町であたしが拾われた日だもん」
きっぱりと少女が言った。
その言葉に驚いたように少年が少女を見る。
「信じられないなら証人連れてきてあげようか?転移呪文使えば、一瞬で行って帰ってこれるから」
自信満々の笑みでそう言うと、少女はこちらへ視線を向けた。
「ね、タイムちゃんv」
ころっといつもの笑顔と口調に戻って言う少女に、タイムは大きくため息をつく。
「頭打って記憶戻るなんて、お約束だね、あんた」
「期待を裏切らないのがこのペリドットちゃんなのよ~」
ふふんと笑って言う少女――ペリドットに、タイムはもう一度ため息をついた。
テントの向こうに隠れたままのティーチャーも、元通りの彼女の言葉にほっとする。
サーカス団の団員たちは、突然見ず知らずの冒険者の名前を呼んだ彼女に驚いているようだった。
「に、人間の言うことが信じられるかっ!!」
突然バンバードの少年が声を張り上げる。
「そいつらはそうやって俺たちを騙して村を襲ったんだっ!人間の言うことなんて、信じられねぇっ!!」
「あっちゃぁ~。最悪なケースじゃん」
頭を片手で押さえたままペリドットがため息をつく。
「これって1番追い払うの面倒なタイプじゃない」
ぽつりと言ったタイムの言葉が聞こえたのか、ペリドットは「ホントだよ」と呟いきながら頷いた。
「だったらしょうがない。力ずくで追い払っちゃうよ!」
軽く手を振ると、ペリドットの側に浮かんでいた水晶球――オーブが動いた。
オーブは電気を発しているのか、時折ぱちっと音を立てて光を放つ。
「へんっ!さっきの突撃はもう喰らわないぜっ!」
「誰が直接攻撃するって言ったっ!?」
勢いよく片腕を振り上げれば、放電したままオーブは一気に上空へ向かって飛んだ。
「方向が全然違うぜ、バーカっ!!」
オーブが当たらなかったのが操作ミスだと思ったらしい。
少年は腕組みをして勝ち誇ったように言った。
「だーかーらー、人の話はちゃんと聞くっ!」
そう叫んだ瞬間、ペリドットは上げていた腕を振り下ろした。

「サンダーストームっ!!」

一瞬、空気に電気が走った。
次の瞬間、バンバードの集団の中心に向かって落雷が落ちる。
「えっ!?」
少年が振り返ったと同時に、雷は荒れ狂う嵐となって辺りのバンバードを飲み込んだ。
「うわあああっ!!」
「ぎゃあああっ!!」
悲痛な悲鳴が響いて、何人かが地に落ちる。
肉の焦げた嫌な匂いがして、思わずサーカスの団員たちは鼻を塞いだ。
「げほ。これ18番にしてるレミアちゃんって、ホントいい度胸してるよねぇ」
「人のこと言えないと思うんだけど」
呆れたようため息をついて、タイムはテントの影を覗き込んだ。
「ティーチャー。大丈夫?」
「ちょっと、辛いんですけど」
ぽてっと地面に落ちたティーチャーは、やはり鼻を摘んで呟いた。
「さーて、どうする?次は本領発揮しちゃうよ?」
オーブを手元に呼び寄せて、ペリドットはまだ飛んでいる少年に向けてにやりと笑う。
振り返った少年は悔しそうにペリドットを睨んだ。
「くそっ!ただじゃ済まさないからな!人間っ!!」
そう叫んだかと思うと、少年は動ける仲間に生存者の回収を命じてさっさとその場から飛び去っていった。
雷に打たれたのだろう自らの武器を捨てて。

remake 2003.10.06