SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter1 帝国ダークマジック

9:妖精-探し人

おかしい。
何かが違う。
何かが足りない。
この感じは何だろう。
わからない。
わかるのはたったひとつ。

全員が揃ってから、あたしただ1人が不調だという事実だけ。



「それであたしを呼び出したんだ?」
赤美の問いに、美青は静かに頷いた。
「何か、こういうの相談できるのって、赤美だけな気がして」
「それは、まあ、あたしも似たようなとこあるしね。わかるけど」
「それで、どう思う?」
美青の問いに、赤美は考え込む。
『何かが足りない気がする』
そう相談を受けた。
美青の勘違いという可能性もあるが、実は自分も微かにだが同じことを感じていたから、そうではないだろう。
今の美青には何かが足りない気がする。
いや、美青自身にではなく『スピアマスターに』と言った方が正しいような気がした。
「ミューク、ミュークに足らんもの~」
「……ちゃんと考えてる?」
「そう言う自分こそ、ちゃんと考えてる?」
軽い口調で呟いていたせいか、美青がツッコミを入れる。
それに気を悪くした赤美が聞き返した。
いつものやり取り。
ただ、今はそれがいつもより深刻なだけ。
ふと、視線を巡らせていた赤美の視界にある物が入った。
がばっと起き上がって、その側まで寄る。
「げっ!?」
「……何?」
突然声を上げた赤美に、美青は冷たい口調で聞いた。
「美青~。あんたいつから少女漫画読むようになったのよ~」
「はぁ?そんなのうちにあるはずないじゃない」
赤美も美青も、何が何でも恋愛が絡んでくる少女漫画が嫌いだった。
だから自分から購入することは決してなく、購入しないのだからそんなものが部屋にあるはずもない。
「現にあるじゃん。これ」
そう言って赤美が指した場所を、美青が覗き込むように見る。
「あ」
思わず声を漏らした。
確かに少女漫画の大手出版社の単行本がそこにはあった。
「ああ!これって借り物だ」
「借り物~?」
赤美が訝しげに表情を浮かべて聞き返す。
「そう。面白いから読めって押し付けられたやつ。返してなかったんだ」
ひょいとその本を抜き取ると、美青はそれを鞄に入れた。
「何てやつ?」
「フェアリーパニック。妖精の女の子の恋愛が何とかって内容だって」
「読んだのっ!?」
「聞いたの」
驚く赤美に、呆れたように美青が返した。
そこで不意に会話が切れた。
2人とも、頭に何かが引っかかったのだ。
あるひとつの単語が。
「妖精……」
赤美が先に口を開いた。
「そうだ、サポートフェアリー!!」
「あ……」
顔を上げて、美青が目の前の親友を見る。
「そうだ。まだ探しに行ってない」
どこか困惑した様子で美青が言った。

サポートフェアリー。
それはスピアマスターを補佐する役目を持つ妖精のこと。
ミルザから水の力を受け継いだミューク家は、同時に妖精族との 『契約』も彼から受け継いでいた。
妖精が自分を補佐してくれるという契約を。
代替わりをしてもその『契約』を続けるためには、覚醒したスピアマスターがサポートフェアリーの力を継いだ妖精の元に赴き、停止状態にある契約の再開を宣言しなければならない。

「母さんは、一度その妖精を起こした」
赤美が玄関を出ようとしたとき、唐突に美青が言った。
「その封印されていた妖精を?」
静かに美青が頷く。
妖精の存在を思い出してから、2人は必死に水晶から先代の記憶を引っ張り出した。
美青の母の補佐をするはずだった妖精が、彼女たちについて行っていないことに気がついたからだ。
その結果、先代は妖精の村を訪れたものの、宣言をせずにその場を立ち去っていたことを知った。
今美青が口にした言葉は、そのことに関するものだ。
「だけど、その妖精はまだ『時』じゃなかったらしく、宣言できなかったって記録にある」
「時って?」
静かに美青は首を横に振った。
「わからない。でも、だから母さんはサポートフェアリーがいない状態で最終決戦に合流した」
「……結果は、敗北だったけどね」
悔しそうに赤美が呟いた。
そう、敗北した。
先代がイセリヤに敗北したから、自分たちは今ここに――異世界にいる。
「まっ、考えたってしょうがないしね」
突然表情を変えて、赤美は明るい笑みを浮かべた。
「これから百合に連絡入れる。予定は明日。いいよね?」
「もちろん」
答えてから、美青は微かに迷ったように視線を動かす。
「……ごめん」
呟くように告げられた言葉に、赤美は驚いて彼女を見た。
「本当は1人で行った方がいいんだろうけど」
「気にしないの!」
ばんっと赤美が美青の背を叩く。
突然のことに身構えることが出来なかった彼女は思わず咳き込んだ。
「1人よりは7人だよ。今の向こうの状況を考えると、それが最善の選択だと思わない?」
自身たっぷりに言って、赤美が笑う。
それを見て、美青も思わず小さく笑った。
その表情に内心ほっとし、赤美は扉のノブに手をかける。
「それじゃ、また明日」
「うん。お休み」
ひらひらと手を振って、赤美は美青の部屋を出た。
自分の部屋に戻ろうとして、ふと足を止める。
冷たい風が夜の町を吹き抜けていった。
「12月、か……」
自分が覚醒してから、もう3ヶ月。
駅前では、もうクリスマスに向けて新商品を売り出している頃だろう。
「あとどれくらい続くんだろう。この戦い」
夜空に浮かぶ月を見上げて、赤美はぽつりと呟いた。



部屋に戻った直後、赤美は紀美子に事情を話し、さらに残りの4人全員に連絡を入れた。
仲間の返事は揃ってOKという言葉。
百合だけは、向こうの情勢を考えてか少し戸惑ったようだったが、結果的に了承してくれた。
「まあ、それで戦力落ちても困るしね」
「百合ってば素直じゃないねー」
茶化すように言った実沙をぎろっと睨む。
彼女たちが集まったのは、たまに会議をする中等部校舎の裏山。
「んで?向こう行ったらどうするの?」
百合の怒りを気にしないようにして、実沙がいつもの口調で尋ねた。
「エスクールの妖精の村を探すの」
答えたのは美青でなく赤美だった。
「妖精の村?」
「そう。そこにいるはずだから。サポートフェアリー」
説明をしながら横目で美青を一瞥する。
空を見上げたまま黙り込んでいる親友。
彼女は今どんな心境なのか、自分には想像もつかない。
「お待たせしました」
耳に入った声に視線を戻すと、下の方から紀美子と鈴美が駆け上ってくるのが見えた。
「遅いよー、2人とも」
急かすように沙織が声をかける。
「すみません。ちょっと手間取っちゃって」
「何に~?」
息を切らせながら言う鈴美に、不思議そうに実沙が首を傾げた。
「計算です」
「計算?」
「ええ。アースとインシングの時差、というべきでしょうか」
ポケットからメモを取り出して、紀美子は百合にそれを差し出した。
「インシングの1日はアースの2日です。開校記念日の夜まで今から数えて3日。それを考えると、1日半で全てを終わらせて帰ってこないといけません」
「ええっ!?マジでっ!?」
「どおりで……。1回向こうに行ったとき、時間の感覚がおかしいと思った」
感心したように沙織が言う。
その隣で、美青が納得したという表情で何かぶつぶつ呟いていた。
「でも、それって……」
「はい。おかしいんです」
言いかけた百合の言葉を理解して鈴美が頷く。
「何が?」
「先代のいた時間よ」
わからないといった風に尋ねる赤美に百合が答えた。
「先代が向こうから逃げ出したのが20年前。それからこっちに来たわけだけど……」
「それだとこっちでは40年の時間が流れていないといけないはずなのに、戸籍を確認しても20年しか経ってないのよ」
百合の言葉を引き取って紀美子が続けた。
「ああ、そういえば……」
納得して赤美が呟く。
「それだけがどうしてもわからなくて」
「時の精霊」
突然沙織が口を開いた。
驚き、全員の視線が彼女を捕らえる。
「沙織?」
「風の精霊の眷属に時を司る精霊がいるじゃない。それが関係してればありえるな、と思ったんだけど」
「でも、何のために?」
その疑問に答えられず、沙織は口を閉じてしまう。
「戦いを知らない代をつくるわけにはいかなかった」
代わりに口を開いたのは百合だった。
「次の代が力を受け継いで覚醒して、向こうと互角に戦えるようになるまでの時間は欲しかったけれど、戦いを知らない代を作ってしまえばその分こっちが不利になる。そう精霊が考えたのなら納得いくんじゃない?」
「まあ、そうですけど……」
「それより!」
どんっと赤美が近くの木の幹を叩いた。
叩いたというより殴ったという方が正しいかもしれない。
「今はその問題より先に解決しなきゃいけないことがある」
滅多に聞くことのない彼女の真剣な口調に、しんと辺りが静まりかえる。
「ねーねー」
その沈黙を破ったのは実沙だった。
「行く前にさ、ちょっとした提案があるんだけど」
「提案?」
「じゃーん!こっれでーす♪」
そうやって実沙が見せたのは腕。
正確には、左手首のあたりにつけた黄緑色の腕輪。
「……それが何?」
赤美が冷たい瞳で実沙を睨みつけながら尋ねる。
「やだなーセキちゃん。わかんないのー?」
「わかるかっ!!」
「これはね、魔法の水晶でーす」
一瞬、沈黙が辺りを包んだ。
「えええええっ!?」
声を上げたのは、赤美、沙織、鈴美の3人だった。
「何でそんなに驚くかな?」
「だって先輩。それ、どう見ても……」
「魔法の水晶なの!」
きっぱりと実沙は言い切る。
それでも納得できないという様子で、鈴美は再び口を開こうとした。
「その水晶の“能力”ですか」
慌てて鈴美が口を閉じる。
呆れたように言ったのは、自分の隣にいる紀美子。
「そう!さっすが紀美ちゃん!」
にぱっと笑って実沙が得意そうに笑った。
魔法の水晶に秘められた“能力”――この場合は“機能”というべきか。
それは水晶自体が変形する力だった。
数の制限はある。
だから新しい変形を覚えさせれば、古いものから自動的に消えていく。
あまり古いものは先代さえ知らないものだろうから、今を生きる彼女たちには関係はない。
多くの代は常に水晶を武器にして持ち歩いていたため、その“能力”を使うこと自体ほとんどなかった。
絶対に消えることのない水晶の変形能力、それが各自の武器だったのだ。
「そういうことで、変形させてみました~」
「みました~、って……」
「だって、ロッドだってどうせお母さんたちがつけといた形でしょ?それはありがたいけどさ。あれって持ち運び不便じゃん」
今自分たちが封印を解くときに使っている形態の欠点を指摘しながら、びしっと人差し指を立てる。
「そりゃ、確かにそうだけど……」
「だから!こうしてアクセサリーにしちゃえば楽になると思わない?」
明るく言われたその言葉に、誰もが思わず納得する。
よくよく考えてみれば、あの形の水晶は持ち運ぶのも隠すのも不便極まりない。
「でもね実沙」
それまで静観していた百合が静かに口を開いた。
「校則で装飾品は禁止よ」
「理事部の権限ってのがあるじゃん」
笑顔を浮かべたままあっさりと言い返す。
「理事部の、じゃなくて理事長である私のよ」
「でもあるんでしょ?権限」
にっこり笑って言われた言葉に、百合は大きくため息をついた。
「まあ、確かにロッドだとかさ張るしね」
「やったー!理事長公認!」
再び大きなため息をつく百合を尻目に、実沙はぴょんぴょんと跳ねながら1人で喜んでいた。

目を閉じて、頭の中で手につけるアクセサリーを思い浮かべる。
ぽんっという小さな音を立てて、手の中にあった水晶が僅かな白い煙を出した。
「腕輪だ」
煙を避けるようにして手の中を見ると、そこには赤い腕輪があった。
「セキちゃんも腕輪だね~」
ひょいっと手の中を覗き込んで、楽しそうに実沙が言う。
「あたしもそうみたい」
そう言って、沙織が自分の左腕を見せる。
「私たちは指輪ね」
その言葉に、3人の視線が百合たちの方へ移った。
百合と紀美子、鈴美の左手の中指には、やはり水晶が変形した指輪がはまっていた。
「これって落とさないの?」
腕に嵌まった腕輪を見ながら、不思議そうに沙織が尋ねる。
「外そうと思わなきゃ外れないみたいだよ。便利だよね~」
にぱっと笑って実沙が説明する。
「さて、美青は~?」
ひょいっと実沙は美青の手の中を覗き込んで、思わず言葉を失った。
美青の手の中には、今だ変形しないままの魔法の水晶があった。
「……やっぱり」
小さく美青が呟く。
魔力が落ちているのが気のせいでないことが、これではっきりした。
自分だけ。
自分だった1人だけが、こんなにも力が落ちている。
不意にぽんっと肩を叩かれ、顔を上げた。
目の前には、呆れたような顔をした親友の顔。
「赤美……」
「落ち込まないの」
こちらが言葉を続けるよりも先に、きっぱりとした口調で言った。
「何のためにインシングに行くと思ってんのよ。ここでいくら落ち込んでたって始まんないよ」
「……そうだね」
彼女の性格を知っているからこそ、それだけ返した。
それだけしか、返さなかった。
この周りの男子生徒から恐れられ、自分たちから見ればどこか抜けている友人は、こういうところでは意外に気が回るのだ。
先を読んで行動できるというのか。
時折見せる、いつもは感じさせないようなしっかりした表情。
それを見せるときは、彼女も真剣だということがよくわかっているから。
「よし!紀美!ゲート開いて」
「はい、姉さん」
紀美子もそれを知っていたから、笑顔で頷いた。
口の中で呟くように詠唱して、“時の封印”を解く。
目を開いて全員が姿を変えたのを確認すると、紀美子――セレスは一歩前に進み出た。
「精霊よ。今ここに、世界を越える力を我に与えよ」
再び目を閉じて、静かに言葉を口にする。
ほんの僅かであったが、次第に空間が歪み始めたことに彼女自身は気づいていた。
「異界の扉よ。我らが前に姿を現わし、我らを異界の地へ誘わん!」
空気が揺れた。
風が吹き荒れ、木々がざわめき、近くにいた鳥は突然の違和感に慌ててそこを飛び去っていく。
静かにセレスは目を開いた。
「開け、ゲートっ!!」
唐突に空間が捩れた。
翳していた杖の先端の玉が強く発光する。
その光が消えると同時に、彼女の目の前に黒い大きな穴がぽっかりと開いて、その場に浮かんでいた。
「これがゲート……」
誰かがそう呟いたのが聞こえた。
「さすが魔道士。あたしたちが開いたのとは段違いの大きさ」
「しかも、あの時は失敗したもんね」
感心したように呟くタイムの横で、レミアがため息をつく。
「行きましょう。初めてだから、たぶんそんなに長くは持ちません」
振り返ってセレスが言った。
「うん、行こう」
頷いて、真っ先にルビーが一歩を踏み出した。
そのまま黒い穴の中へと消えていく。
それに従うように、次々と他の者もゲートの中に足を踏み入れた。
「タイムさん、早く」
最後に残ったタイムに、セレスが声をかける。
「わかってる」
答えてから、タイムはその場で目を伏せた。
ただでさえ迷惑をかけてるから、もうこれ以上、1人だけ迷惑はかけたくない。
そんな思いを心の中に押し込めて、静かに目を開く。
黙ったまま、タイムはゲートの中に足を踏み入れた。



ゲートを潜り抜け、たどり着いた場所は見知らぬ岬だった。
何もなく、ただ目の前に海の広がる場所。
ただひとつ目に付くものといえば、大昔に立てられたのだと思われる石で造られた墓石の残骸らしき物。
「ここは……?」
「エスクール、だと思うけど」
ルビーのすぐ後にゲートを抜けたペリドットが、辺りを見回しながら答える。
「ラピスの岬」
突然聞こえた声に、2人は驚いて振り返った。
そこには既にゲートの穴はなく、全員がその場に揃っている。
その中でただ1人、その集団から外れたレミアは、墓の残骸の前に立ち尽くしていた。
「この墓の主の名前。それを取って、ここはそう呼ばれているの」
「レミア?あんた、何でそんなこと……?」
ミスリルの言葉に、レミアははっとしたように顔を上げた。
「……え?あたし、今何か言った?」
「え……?」
レミア以外の6人が、思わずすぐ側にいる者同士で顔を見合わせる。
「あなた、今ここの地名言ったじゃない。どうして知ってるの?」
ベリーがもう一度冷静に問いかける。
「……知らないよ?あたし」
告げられた言葉に、彼女たちは再び顔を見合わせた。
「どういうこと?」
「私に聞かれても」
姉の問いに困ったようにセレスが返す。
「レシーヌさんが知ってたとかかなぁ?」
ペリドットが不思議そうに首を傾げた。
「どうだろう?レシーヌさん、クラーリア出身じゃなかったはずだし」

クラーリア。
エスクールの最南端に位置する、ここからすぐ北にある小さな村。
かつて勇者ミルザが生まれ育ち、そしてその生涯を閉じた村。
ルビー、セレス姉妹とタイムの母親の故郷である場所。

「それより今は妖精の森を探す方が先でしょ」
はっきりと聞こえたベリーの言葉に、全員がはっと視線を向ける。
「そうだった。で?どうしよう?」
チャンスと言わんばかりに、レミアがミスリルに問いかける。
「そうね。クラーリアの次のサルバまでいいとして、問題はその次ね」
何処で見つけたのか、ミスリルは古い地図を取り出した。
「何で?」
「ここからルートが2つに分断してるのよ。城下の手前の町で合流するまでね」
「うわっ!本当だ」
地図を覗き込んだルビーが心底嫌そうに声を上げた。
「森が何処にあるか何の情報もないし、さらに言うなら時間もない」
「ヘタしたら1日半でここから最北端まで行かなくちゃいけないわけですしね」
じっと地図を見つめたまま、セレスが考え込むように片手で口元を覆い隠す。
「とりあえず、パーティを分断したら?」
唐突にベリーが言った。
「え?」
「3対4くらい?分断してどちらかが片方のルート、もう片方が別のルートに行くの。その方が、少なくとも探索の時間は削れるでしょう」
「でも、タイムがいない方が森を見つけたらどうすんの?」
「セレスとペリートを別々のグループに入れておけば問題ないでしょう?使えたはずよね?移動呪文」
「ああ、そういえば」
思い出したというようにセレスが頷く。
確かに、自分とペリドットは瞬間的に目的地に移動する呪文を使える。
「でも、あれって行ったことのある場所にしか……」
「水晶から記憶を引っ張り出せば問題ないわ」
きっぱりと言ったベリーの言葉に、一同は感心して思わず彼女を見る。
「まあ、その通りと言えば、そうだしね」
ふうと息を吐いてルビーが言った。

ルビーとベリー。
始めは中が悪そうだったこの2人は、既に和解をしていた。
あの状況で、すでにラウドが消滅してしまっていたあの場で、ベリーを疑うなというにも多少の無理が生じる。
それを理解してか、ベリーはセレスの意識が戻るまで弁解をしようとはしなかった。
セレスの意識が戻って彼女が事情を説明し始めると、そこで初めてベリーは自分のことを話した。
それを全て聞き終わって、初めてルビーは彼女への警戒心を解いたのだ。

「じゃあメンバーだけど、セレスとペリドットは分けるとして、バランスを考えるとあとは……」
「待った」
言いかけたミスリルをルビーが止めた。
「セレスの方はあたしとタイムだけでいいよ」
「……え?」
「姉さん?」
「駄目よ!」
珍しくミスリルが声を上げた。
「今の状況、忘れたわけじゃないでしょう?タイムが入る方には……」
「そっちこそ忘れてない?タイムの能力、落ちてるのは魔力だけだよ」
突然ルビーの口調が変わった。
ミスリルが思わず口を閉じてしまうほど真剣なものに。
「あんたのことだから、どうせ魔力が落ちてるからって理由でなるべく戦わせないようにする魂胆だったんでしょう?でもね。それじゃ余計に自信なくなると思わない?」
「そ、それは……」
「特別扱いはよくないでしょう?あたしなら、そんなことはしない」
きっぱりと言い切る。
親友だと思っているから、余計にさせない。
いつもは見せることのない冷たい光を宿した赤い瞳は、言外にそう告げていた。
「いいよ、ミスリル」
静かにタイムが口を開いた。
ルビー以外の全員が反射的に彼女を見る。
「あたしもさ、守られてるより自分から行った方が気も晴れるから。ヘンな気、使わなくていいよ」
「タイム……」
心配そうに自分の名を呟くミスリルに、タイムはにこっと笑って見せた。
「で?セレスは?」
唐突にレミアが尋ねた。
「あんたはそれで納得できるの?」
その言葉にセレスは小さく笑う。
「普段はああいう人ですけど、姉さん、こういうときに考えなしに物言ったりしませんから」
姉妹だから、一緒に暮らしているから、その分よくわかる。
普段見せない姉の性格を、おそらく他の者たちよりはよく知っている。
タイムも同じくらい理解しているはずだ。
姉兄の元から日本に来て以来、ほとんどの時を一緒に過ごしているのだから。
「……わかった」
ため息をつきながらミスリルが言った。
「その代わり、何かあったらちゃんと連絡しなさいよ」
「そっちこそ」
ルビーがくすっと笑って言葉を返す。
その表情は、既にいつもの彼女に戻っていた。
「あ~あ。あたしたち抜きで決めてくれちゃって」
「いいじゃないの。どうせあんたじゃまともな意見、出せないでしょ?」
ベリーの言葉に、うっとペリドットは口籠もった。
「ベリーちゃん、酷い」
「誉め言葉として受け取っておくわ」
あっさりと言って、ベリーは視線を逸らした。

「それじゃ、がんばろうね。タイム」
苦笑していたタイムにルビーが手を差し出す。
「うん。よろしく頼むわ、リーダー」
そう言って笑うと、タイムは差し出されたその手を強く握り返した。



タイムリミットまで、あと1日半。

remake 2002.11.14