SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter1 帝国ダークマジック

17:動き出す反乱

精霊の国と呼ばれる王国エスクール。
その最北端、かつて王都と呼ばれた街の西にある森。
精霊の森――そう呼ばれる場所の入り口付近にある古井戸の側で話し声が響いていた。
「へー。タイムたちって最初ここから来たんだー」
井戸の上を飛び回り、興味津々と言った口調で言うのはこの森の奥に住む妖精。
「そう。エスクールの地下からここにね」
簡単に説明してタイムは振り返る。
「もうすぐみんなも来るから、その前に確認するけど。本当にいいね?ティーチャー」
その言葉に妖精――ティーチャーは動きを止めてにこっと笑い返す。
「断る理由なんかないよ」
引き受ける理由はあってもねと笑って付け加えた。
自分は彼女のサポートが仕事。
この頼みもサポートのひとつであるのなら、引き受ける理由が十分にあると彼女は笑った。
「じゃあ頼むわ」
「了解!」
ぴっとティーチャーが親指を立てる。
その表情がすぐに別のものに変わった。
「あ、ルビーさん!」
その言葉にタイムは後ろを振り返った。
「お待ち。準備OKだよ」
すぐに笑顔でそう声をかけるルビーが視界に入る。
「こっちもOK。行く?」
「当然」
はっきりと頷くルビーに、タイムは微かな笑みを見せた。
「じゃあよろしく。ティーチャー」
「了解~♪」
返事をすると、ティーチャーはひらりと舞うように井戸の上から飛び去った。
「みんなは?」
問いかけられて、タイムは井戸を見る。
「先に行ってる。説得は多分、セレスが」
「今のところは計画通りってわけだね」
「そういうこと」
どこか楽しそうなルビーの声に、タイムは苦笑しながら言葉を返す。
「行きますか」
「もちろん」
確認するように言って笑い合うと、赤と青、2つの影は井戸の中へと姿を消した。

その直後、この森の西方で爆発が怒った。
この森の西――それは即ち海上。
その爆発は城下まで揺るがすほどの振動を起こした。
そして支配者は城を離れる。
それが謀られたものだとは知らずに。



「ダークマジックの皇女っ!?」
エスクール城下の地下道。
王族脱出用に作られた、城の人間なら誰でも知るそれ。
そこにレジスタンスのアジトがあるなどと、誰が気づくだろうか。
気づいているのは元々城下に住み、数か所あるその出口の近くに家を持つ者のみ。
そんな暗い場所に響いたのは、まだ若い青年の声だった。
「あなたが……!?」
睨むような視線でレジスタンスのリーダー――リーフがアールを見た。
その瞳に宿っているのは驚きと、憎しみ。
「……そうだ」
アールは一度目を伏せると、搾り出すような声で答える。
表情は、何か痛いところを突かれたような苦しそうなものになっていた。
心配になりながらも、セレスはリーフを見て続けた。
「国を追われた方です。義妹さんを殺されて、自分も殺されそうになって……。ここしかお願いできる場所がないんです」
悲痛な声が室内に響く。
「お願いします。この方をここで匿ってください。今、この世界で一番安全なのはここなんです」
「精霊の森が」
小さく消えてしまいそうなほどの声で、リーフが口を開いた。
「精霊の森があるではありませんか。そこなら、ここよりもっと安全なはずだ」
「あそこに入って妖精の村にたどり着けた者がいないこと、あなたはよくご存知のはずです」
きっぱりとセレスが返す。
苦い表情をしてリーフは彼女から視線を反らした。
予想はしていた。こんな反応をされることを。
だが、ここで退くセレスではない。
「リーフ様っ!どうか、お願いします!」
「敵、だったのでしょう?」
静かにリーフが問いかける。
「え……?」
その問いが咄嗟に理解できなくて、思わずセレスは聞き返した。
「敵だったのでしょう?その女。なのに、何故あなたはそこまで?」
一度逸らされた視線が、戸惑いを含みながらももう一度こちらに向けられる。
ここで退くわけにはいかないと、セレスは彼の目を真っ直ぐに見た。
誠意が伝わるように。
この願いが、届くように。
「裏切られて、それでもこの人の義妹が逃亡先として選んだのは私たちのところでした」
「それはただ、異世界の方が安全だと思ったからでしょう?」
「そうかもしれません。それでも……」
不意にセレスが言葉を切る。
「私はその人が私たちを頼ったからだと思いたい。私たちを一時でも信頼してくれた思いを、裏切りたくないんです」
リーフは視線だけで彼女を一瞥した。
自分の目をまっすぐに見たその瞳。
決意のような色が浮かんだその瞳には、惹きつけられる何かがあった。
いつまでもこの瞳を見ていたいと、そう思った。
だが、それとこれとは別問題だ。
帝国の皇族はイセリヤが関わった今でも同じ一族。
その一族の者を迎え入れるわけにはいかない。
「それでも……」
「約束する」
拒否を続けようとしたリーフの言葉を遮って、唐突にアールが口を開いた。
「イセリヤを倒して帝国が解放されたとき、すぐにこの国を、いや、世界を解放する」
その言葉に驚いてリーフは彼女を見る。
「だからお願いだ。私をここに置いてくれ」
悲しみに歪んでしまいそうになる表情を何とか保って、アールはテーブルに手をついて頭を下げた。
本当ならば、セレスたちと共に祖国に乗り込みたかった。
自分を逃がして命を落とした義妹の仇を取ってやりたかった。
だが、今のこの体でもう一度イセリヤに挑んだとしても、返り討ちに合うのは目に見えている。
だから、どうしてもついていくことはできない。
自分にできることは別の場所で、別の形で協力することだけだ。

「できません」

そんな彼女の願いを無にするかのような否定の言葉が耳に届いた。
しかし、それはリーフが発したものではなかった。
セレスが驚いて扉の方を振り返る。
そこにいたのは、いつ入ってきたのか、銀の胸当てを装備した茶色い髪の少女。
「ミューズっ!?」
その姿を認め、リーフは驚いたように彼女の名を呼んだ。
「ミューズ様……」
「セレスさんには申し訳ありませんが、その願いだけはお聞きするわけにはいきません」
はっきりとした口調で告げる。
「どうしてですか!?この人はもう……」
「たとえ」
悲痛なセレスの言葉をミューズが遮った。
こちらを見つめる茶色の瞳は冷たい光を宿している。
憎しみと怒りを混ぜたような光を。
「たとえ今、その者が帝国にとっての裏切り者だったとしても」
金属同士が擦れるような軽い音が響いた。
その音に誰もがはっと息を呑む。
ミューズの手には銀色に光る剣が握られていた。

「帝国の人間を仲間に迎えることなど、できません」

冷たい光を宿した瞳でアールを睨んだまま、彼女はきっぱりと継げた。
「ミューズ」
そんな彼女を咎めるかのように、リーフがその名を呼んだ。
「あの時我が城を落とした者だって、最初は和平の使者としてこの国に入ったはずです。それが……」
言いかけて、ミューズは口を閉じた。
3年前を思い出しているのだろうと、リーフは思った。
自分もあの日のことを思い出していたから。
「確かにそうだ。だけどなミューズ」
諭すような口調でリーフが口を開く。
「国を治める者として、人が信じられなくなってどうする?見知った者しか信じられない者が治める国など、すぐに限界がくる。隙を突かれて崩壊する」
静かに語るリーフに、セレスはどこか寂しそうな雰囲気を感じた。
何かを求めているような、そんな雰囲気を。
それを感じた、その瞬間のことだった。
どこか遠くでどんっという爆発音が聞こえた気がした。
少し遅れて部屋に設置された家具がカタカタと揺れ始める。
それは即ち、この辺りの地面が揺れているということで。
「何だっ!?」
突然のことに状況が掴めず、リーフが声を上げる。
「地震?」
呟いて、セレスははっと目を見開いた。
この振動――遠くで起こった爆発は、おそらく自分たちに向けられた合図。
ということは、この部屋の外にいるはずだ。

「これは計画の合図。全ての始まりといったところかな」

セレスが扉の方を振り返ろうとしたとき、突然室内にこの部屋にいるはずのない人物の声が響いた。
その声にある者は驚き、ある者はほっとしたような表情で扉の方を見る。
そこにいたのは、自分たちとは別行動をしていた姉とその親友。
「姉さん!タイムさん!」
「やっほ。お待たせセレス。んで、お久しぶり。リーフ王子にミューズ王女」
こちらに向けられたその顔は、確かに笑みを浮かべているはずなのに、何故か彼女たちは笑っているようには見えなかった。
彼女たちが纏った表情とは反するその雰囲気に、思わずリーフは息を呑む。
「……計画?」
以前彼女たちがここを訪れたときとは全く違うそれに飲まれてしまわないよう気を張りながら、先ほど感じた疑問を口にする。
「そう。題して『エスクール独立計画』」
その言葉に驚いて、セレスとアール以外の全員がルビーを見た。
当然、それはリーフとて例外ではない。
「エスクール独立って、じゃあ……」
「ただし、あたしたちは手を貸さない」
きっぱりと言い切られたタイムの言葉に、リーフが表情を変える。
「何……?」
「そんなっ!」
そんな彼女に抗議をするように叫んだのはリーフではなく、彼よりも近くで話を聞いていたミューズだった。
「時がくれば私たちは必ず帝国に攻め込むと、そう約束してくださったではありませんかっ!!」
「そう。だから手を貸せない」
「え……?」
タイムの言葉に、ミューズはわからないと言った表情で言葉を止める。
「今、敵を攪乱するために他の4人が城に乗り込んでる」
再びルビーが口を開いた。
「だけど、あいつらがやってるのはそれだけ」
「一体、どういう意味だ?」
緊張したままの表情でリーフが尋ねた。
「準備はしたってことよ。あたしたちがこの国でできるのはここまで。4人が戻ればあたしたちは帝国に渡る。この国はあんたたち自身が取り戻すの」
淡々と紡がれた言葉。
驚いたように、あるいは呆気に取られたように兄妹はルビーを見た。

この国を取り戻す。

その言葉が、やけに頭に響いた。
何かを訴えるような感覚。
今まで封じ込んでいた感情が、一気に湧き出るような感覚に襲われる。
「さっきの爆発。ちょっと仕掛けがしてあってね」
唐突にタイムが口を開いた。
その表情は、彼らからしてみれば珍しい、どこか楽しそうなものだった。
「火の粉が城に降り注ぐの」
「何……?」
思わずリーフが表情を変える。
「幻だけどね。でも、それを見たら領主は動かなければならなくなる。要するに……」
「今の城は調査隊を派遣した後で、戦力が落ちている可能性があるということですね」
セレスの言葉に、タイムは正解とばかりに頷いた。
「加えて4人の侵入者。絶好のタイミングでね」
「それから」
タイムの言葉が終わるのを待って、ルビーが再び口を開く。
その視線はセレスの隣に立つアールへと向けられていた。
「行方不明だった第一皇女がエスクール王族についた。独立するのに最高なタイミングだと思わない?」
そう言って、笑う。
聞きようによっては、人を道具のように扱う酷い作戦かもしれない。
しかし、これも全て反乱のため。
この国の人間の手で国を取り戻させるための作戦のひとつ。
「理解いただけたかしら?リーフ=フェイト王子殿下」
にこっと笑ってルビーが問いかけた。
わざと女らしい、含みのある言い方で。
そんな彼女に、ふうとリーフがため息をつく。
「だからその女を認めて匿ってくれと、そういうことか?」
さすがに気づいたのか、どこか呆れたように聞き返す。
「ご名答。さすがというべき?」
「どうでもいいよ。だが……」
言いかけて、言葉を切る。
一瞬だけ何処かへ視線を向けて、すぐに口を開いた。
「その話、快く引き受けさせてもらう。アマスル皇女殿下は責任もって保護しよう。そして……」
ちらっと目の前に立つ妹を見た。
「全自由兵に告ぐ!今すぐ反乱の準備を!城を取り戻す!」
はっきりと強い口調で言われた言葉に、ミューズははっと兄を見た。
「兄様!?」
「早くしろ!この機会を逃すなっ!」
「は、はい!」
リーフの迫力に圧倒され、慌ててミューズは部屋を駆け出した。

「必ず国を取り戻す」
妹が出て行った扉を見つめてリーフが言った。
「そして、あなたたちとの約束も必ず守る」
しっかりと言葉を続ける。
「だから、帝国の方はよろしく頼む」
「当然。そのためにわざわざこんなことしたんだから」
当たり前と言った口調でルビーが言った。
「ここまでお膳立てしたんだから、失敗なんてするんじゃないよ」
厳しい、それでも優しさが含まれている言葉。
それを聞いて、リーフは始めて笑みを浮かべた。
「わかってる。……ありがとう」
照れたような表情で礼を告げられて、ルビーは一瞬驚きの表情を浮かべたものの、すぐににこっと笑顔を返す。
「行くよ。もうすぐレミアたちが戻ってくる」
リーフに背を向けると、隣にいる妹と親友に声をかけた。
2人は黙ったまま頷いて、リーフに背を向ける。
「アール」
扉を出るか出まいかというところでルビーは突然足を止め、振り返った。
「あたしたちが戻ってくるまでがんばんなさいよ」
「言われなくても」
顔に薄っすらと笑みを浮かべてアールが言い返す。
それを見て満足したかのように笑うと、ルビーは扉の向こうへと姿を消した。



「引き受けはしたが」
2人だけになった部屋にリーフの声が響いた。
視線を向けると、彼が鋭い瞳で自分を見つめていたことに気づく。
「俺はあの時のこと、許したわけではないからな」
その言葉にアールの表情が曇った。
「気づいていたのか」
静かにリーフは頷いた。
「ミューズは気づかなかったらしいけどな」
それだけ言って、リーフは扉の方へと歩き出した。
「どうすればいい?」
扉の方に背を向けたままアールが問いかける。
「許してほしいとは言わない。ただ信じてほしい。そのためには、どうすればいい?」
「証拠を……」
そう言いかけて、リーフは振り返った。
「証拠を見せてほしい。あなたが帝国を裏切ったという証拠を」
きっぱりとそれだけ告げると、再びこちらに背を向けて歩き出す。
静かな空間にぱたんという音が響いて、扉が閉まった。
部屋の中に残ったのはアール1人だけだ。
「帝国を裏切ったという証拠、か……」
誰もいない部屋で、無意識のうちにアールは呟いていた。



精霊の森の入り口付近にある古井戸。
そこから僅かに光が漏れた。
次の瞬間、中から水色のリストバンドをつけた手が現れる。
その手は井戸のふちを掴むと、力を入れて体をひっぱり上げた。
「よっと」
井戸から現れたのは赤い髪をした少女。
ひょいっと井戸から出て、草の上に立つ。
その一連の動作に合わせるように高く結い上げられたポニーテールが揺れた。
「ほらセレス」
再び井戸を覗いて、今度は中へ手を伸ばす。
中にいた少女の手をしっかり掴み、彼女が井戸の外へと出るのを手伝った。
「ありがとう、姉さん」
「どういたしまして」
困ったような笑顔で礼を言う妹に、ルビーは笑顔を向けた。
「それにしても、頼んでおいて正解だったね」
ようやく外に出たタイムが、井戸の底を覗き込んで言った。
思ったより深く掘られていない井戸。
その底に見えるのは、微かに光る魔法陣。
「妖精呪文って便利だよね。そのアイテム使えば一瞬でここに戻って来れるんだから」
「消耗品だけどね」
罅の入った水晶のペンダントを見て、タイムが言った。
「ミスリルにも渡しておいたから、そろそろ戻ってくるとは思うけど」
「そっのとおーり♪」
妙に明るい声が響いた。
振り向くと、井戸の中から勢いよくオーブが飛び出してくるのが目に入った。
「攪乱部隊、ご帰還でーす♪」
そんな明るい声と共に一番に井戸から飛び出してきたのはペリドットだった。
「お帰り。どう?うまくいった?」
井戸から出るのに手を貸してやりながらルビーが尋ねる。
「当然!もうお城は大騒ぎだよ」
「自由兵団が侵入するための時間稼ぎにチルドアースを呼び出したから、まだパニック起こしてるんじゃないかしら」
タイムの手を借りて外に出たミスリルが、どことなく楽しそうに言った。
「そっちもうまく取り付けたみたいね」
アールの姿がないことを確認して、ミスリルがルビーに視線を向ける。
「当然でしょ?反乱の機会を与えてあげたんだから、ちょっとは協力してもらわないとね」
「でも、ちょっと悪かったかもしれませんね」
困ったようにセレスが笑った。
「ダシに使ってしまったわけだからね。この国の王子を」
最後に井戸から出てきたベリーが、まるで悪気も何もないような表情で言った。
「いいんじゃない?元々自分たちで何とかしたいと思ってたんでしょ?向こうさん」
「まあ、そうなんですけどね」
レミアの問いに、セレスが複雑そうに答える。
良く言えば、自分たちはそのお膳立てをしただけだ。
「これで本国の方もこっちに少しでも兵を送らなければならなくなった」
急に真剣な口調になってルビーが言った。
それに従うように、一気にその場に緊張が走る。
「あとは本国に反乱軍がいるかどうかにかかってる」
「アールは噂さえも聞いたことがないって言っていたけど」
「だけど結構な悪政であるには違いないと言っていたわね。世界を手に入れるまでの辛抱だと言っていたけれど、エスクールを落とした今でさえその政治は変わっていない」
木に背中を預け、腕組をしたままミスリルが言った。
「そう。だったら尚更ない方がおかしいと思うわけ」
「確かに。可能性は高いわね」
呟きに近いベリーの言葉を聞き取ったルビーが、黙ったまま頷く。
「とにかく行ってみなくちゃわかんない。行こう!母さんたちの敵討ち~!」
人差し指を空へ伸ばしてペリドットが大声で言った。
妙に緊張感のないその言い方に、ミスリルが小さく吹き出した。
「ああっ!?酷いミスリルっ!!」
「馬鹿なことやるからでしょう。セレス」
呆れたようにペリドットを見てから、すぐに視線を移して真顔に戻ったミスリルが呼びかける。
「はい」
頷いて杖をしっかりと握り、セレスは前に出た。
軽く目を閉じて、記憶を探る。
イメージするのは記憶の中の風景。
変わってしまっているかもしれない、先代がインシングにいた頃の帝国の街並み。
「我ここに、空間の精霊に誓わん」
細く目を開き、紡がれるのは転移の言葉。
「精霊よ。今、汝の力を我に貸し与えん。空間を開き、次元を越え、我らを目指すべき地へと誘わん!」
ぶわっと空気が揺れた。
握った杖の先端につけられた水晶球が光を放ち始める。
「はいはい!みんな手ェ繋いで!」
ペリドットが近くにいたルビーに左手を差し出して叫ぶ。
彼女は既にセレスの肩に右手を置いていた。
置いているというより掴んでいるという方が正しいであろう。
セレスのマントに皺が寄っていたから。
「OKだよ!」
全員が手を繋いだのを確認して、ペリドットが声をかける。
視線だけで微かに振り向いて頷くと、セレスはすぐに視線を前に戻した。

「テレポーションっ!!」

一瞬だけ風が巻き起こった。
その周囲にいる動物たちには、何が起こったのかわからなかったに違いない。
古井戸の側にいたはずの7人は、一瞬のうちにその場から消え去っていた。

remake 2002.12.12